リュミエール兄弟のシネマトグラフの時代にまで針を戻せば、映画なんてものは追いかけっこから始まったのである。トーキーが発達する前の西部劇などは、すべて煎じ詰めれば追いかけっこ。
そこから発展して、映画は文学やオペラなどに並ぶ新しい芸術として認知されるに至るのだ。『激突!』は、まさに映画文法のみでつくりあげられた傑作。文学でも舞台でもなし得ない、映画でしか描けないピュア・ムービーなのである。
いみじくも巨匠ヒッチコック先生は、かつて『サイコ』についてこう言及していらっしゃいます。
「主題なんてどうでもいい。演技なんてどうでもいい。必要なのは、映画を構成する様々なディテールが、観客を悲鳴をあげさせるにいたったということだ」
役者が聞いたらマジギレしそうなセリフだが、映画の本質を突いている。この精神は時代を超え、現代の魔術師スピルバーグに引き継がれた。
『激突!』は若かかりしころのスピルバーグが、その情熱と才能をぶつけた傑作である。以降の彼の活躍は言うまでもないが、全てはここから始まったのだ。
物語は単純明快。主人公が車で大型トラックを追いこす、それがきっかけでトラックは執拗に主人公に嫌がらせをし、遂には命をもおびやかし始める…。 ストーリーといえばこれだけ。
ただし、何故主人公の命が狙われるのかはサッパリ分からない。ある意味では不条理な作品である。でも、それで充分なのだ。なぜなら、『激突!』はストーリー至上主義の対極の作品なのだから。
純粋に映画的に優れた作品は、音を消してもそのスゴさが分かる。皆さん、騙されたと思って一度やってごらんなさい。スピルバーグ先生がいかにあらゆる映像テクニックを駆使して、この単純極まりない映画を傑作たらしめているかが分かります。
理屈はいらない。スピルバーグという現代最高のテクニシャンが、技巧の限りを尽してつくりあげた最上の逸品を味わえばよい。製作側は観客を楽しませようとしているのだから、我々は存分楽しもう。それがハリウッド映画の正しい鑑賞法である。
ちなみにこの作品はもともとはテレビ作品として作られたものだ。後に評判になって映画館で封切になったという、珍しいケースである。だから実質的な映画デビュー作は『続・激突!カージャック』ということになる。
この作品もスピルバーグらしい才気あふれた作品で、まだ初々しいゴールディー・ホーンなどが出演している。『激突!』とは直接の因果関係は何もない作品だが、押さえておきたい作品だ。
- 原題/Duel
- 製作年/1972年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/90分
- 監督/スティーヴン・スピルバーグ
- 製作/ジョージ・エクスタイン
- 原作・脚本/リチャード・マシスン
- 撮影/ジャック・マータ
- 音楽/ビリー・ゴールデンバーグ
- 編集/フランク・モリス
- デニス・ウィーバー
- ジャクリーヌ・スコット
- エディ・ファイアーストーン
- ルー・フリッゼル
- ルシル・ベンソン
- キャリー・ロフティン
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