カネとオンナとクスリが満載の、充足願望ムービー
テン年代に入ってからのレオナルド・ディカプリオは、意識的にヒーロー的な役柄を放棄している。
『J・エドガー』(2011年)では猜疑心の強いホモのFBI長官、『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)ではあくどい農園主、『華麗なるギャツビー』(2013年)では孤独な億万長者。
かつて“レオ様”として、世界中の女性ファンを熱狂させたレオナルド・ディカプリオは、にわかファンを根こそぎ駆逐するがごとく、感情移入しづらいエクストリームな人物ばかりを演じているのだ。
マーティン・スコセッシと5度目のタッグを組んだ、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)のジョーダン・ベルフォード役もまた、一般ピーポーからは総スカンを食らうであろう最低キャラである。
ジョーダン・ベルフォードは、かつてウォール街を席巻した実在のトップディーラー。証券会社に出社した初日にブラックマンデーが発生してあえなく倒産、26歳にして自らストラットン・オークモントを設立して社長に就任。
自社が大量保有している株を投資家に売りつけて株価を操作し、上がりきったところで一気に売り逃げるという悪徳商法で巨万の富を得る。そんな男の回想録の映画化権を、ディカプリオは入札合戦の末にゲットし、自ら主演を務めた。
間違いなく今作のディカプリオは、彼のベストアクトのひとつに挙げられるだろう。信じられるものは金ばかり、保身のために仲間を裏切り、女にうつつを抜かし、ありとあらゆるドラッグに手を出すサイテー男を、嬉々として演じている。
“レモン”なるヴィンテージもののドラッグを嗜んだ後、足腰がたたないほどにヨレヨレになってしまい、ジョナ・ヒル演じるドニーと、口から泡を吹き出しながらケンカするシーンは、映画史上でも稀に見るアホシーンなり。ここまで炸裂バカに振り切っていただければ、何も言うことなし!
主人公がエクストリームなら、スコセッシの演出もエクストリームだ。179分の上映時間のあいだ、「ファック」ワードが発生される回数は何と506回。1分間に約2.8回「ファック!」と誰かが叫んでいる計算で、これは劇場用映画のギネス記録だそうな(だから何なんだ、という気もしますが)。
下手すれば、『ウォール街』(1987年)のごとく“拝金至上主義に対する警鐘”という、社会派映画になってしまうところを、カネとオンナとクスリが満載の、充足願望ムービーに仕立ててしまうあたりがスコセッシ節。
この問答無用なフルスロットル感は、彼の代表作『グッドフェローズ』1990年)にも近似している。3時間近い上映時間ながら、マシンガンのような猛烈カッティングで体感速度は30分程度であると断言しよう。
自ら映画化権を買い取って企画を8年間も温め、プロデューサー兼主演という立場で本作に携わったことからも、ディカプリオが『ウルフ・オブ・ウォールストリート』に並々ならぬ情熱を抱いていたことは間違いない。
何せ、俳優休業宣言後にも関わらず作品PRのため、世界を飛び回っていたくらいなのだ。巨匠スコセッシですら、本作では彼が雇った職人監督の立場でしかなかった。
だからこそこの映画には、映画界きってのスター、ディカプリオの狂気がはっきりと刻印されている。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』はある意味で、自分を評価してこなかったアカデミー会員たちへの、強烈な異議申し立てともいえるだろう。
金も名声も全てを得た男が、映画人なら誰しも憧れる勲章を頂かんとして、その集大成的映画を撮りあげた。しかしまたしてもアカデミー会員たちは、彼に栄えある最優秀主演男優賞を授与する選択をしなかった。
この年の主演男優賞に輝いたのは、本作でも脇役を務めたマシュー・マコノヒーだったんである。なんという皮肉!
- 原題/The Wolf of Wall Street
- 製作年/2013年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/179分
- 監督/マーティン・スコセッシ
- 製作/マーティン・スコセッシ、レオナルド・ディカプリオ、 リザ・アジズ、ジョーイ・マクファーランド、エマ・コスコフ
- 製作総指揮/アレクサンドラ・ミルチャン、リック・ヨーン、アーウィン・ウィンクラー、ジョエル・ゴトラー、ジョージア・カカンデス
- 原作/ジョーダン・ベルフォート
- 脚本/テレンス・ウィンター
- 撮影/ロドリゴ・プリエト
- 視覚効果監修/ロブ・レガト
- プロダクションザイン/ボブ・ショウ
- 衣装/サンディ・パウエル
- 編集/セルマ・スクーンメイカー
- レオナルド・ディカプリオ
- ジョナ・ヒル
- マーゴット・ロビー
- マシュー・マコノヒー
- ジョン・ファヴロー
- カイル・チャンドラー
- ロブ・ライナー
- ジャン・デュジャルダン
- ジョン・バーンサル
- ジョアンナ・ラムレイ
- クリスティン・ミリオティ
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