リスク回避のための保険が効きまくった、黒澤明リメイク
山本高広の「地球に生まれてヨカッター!」という物真似のせいで、すっかり熱血キャラがお茶の間に浸透してしまった織田裕二。
しかし彼の演技の真骨頂は、『お金がない!』(1994年)、『踊る大捜査線』(1997年)、『ロケット・ボーイ』(2001年)などに代表されるコメディー・リリーフ的な“軽さ”にあると思う。
2.5枚目の役柄を軽々と演じられる主役級の俳優は貴重な訳で、そんな意味でも織田裕二は実に稀少な存在だ。
森田芳光が黒澤明の傑作時代劇をリメイクするにあたり、ひたすら殺気立った『用心棒』(1961年)ではなく、どこかユーモラスで、木漏れ日のようなたおやかさに満ちている『椿三十郎』をチョイスしたのも、織田裕二の存在が大きい。
かつて世界のミフネが演じた三十郎役に彼をキャスティングしたのは、手に汗握るアクション時代劇であることよりも、まずはコメディーであらんとした故なのである。
森田版『椿三十郎』では、菊島隆三、小国英雄、黒澤明が手がけたオリジナル脚本に、一切加筆・修正を加えていない。
コメディーを強調するにあたって、森田芳光は役者の芝居を徹底的に小劇団風オーヴァー・アクトに仕立てている。
オリジナルでは加山雄三が演じていた井坂伊織役を、リーダーシップを発揮できない気弱キャラにスケールダウンして、松山ケンイチに演じさせているのもその一例だ。
心臓が弱くてやたら薬を飲んでいる風間杜夫、押し入れに押し込められている佐々木蔵之介など、観ているこっちが思わず「オイ!」とツッコミしたくなるようなキャラばかり。
それ以外にも、問題は山積み。どう考えても上手ではない織田裕二の殺陣をカバーするために、引きのショットをほとんどインサートせず、ミディアムショットやズームでアクション・シーンをゴマかしていること、妙に縦の距離感(奥行き)が感じられず、映像的なダイナミズムに欠けること、そして『花とアリス』(2004年)の頃は可憐だった鈴木杏がすっかり肥大化してしいること。
この映画は、そもそもアクション・ムービーとして世界のクロサワと真っ向勝負していない。リスク回避のための保険が効きまくっている。
どうでもいいことだが、織田裕二と豊川悦司が酒を酌み交わすシーンで、「貴公、なかなか聞き分けがいいな。いい子だ」というセリフのとき、えらく二人の顔が接近していたのは何故なんだ。
妙にゲイ・テイストを醸し出していて、ビックリしました。
- 製作年/2007年
- 製作国/日本
- 上映時間/119分
- 監督/森田芳光
- 製作/島谷能成、千葉龍平、早河洋、永田芳男
- プロデューサー/大杉明彦、富山省吾、三沢和子、徳留義明、市川南
- 製作総指揮/角川春樹
- 原作/山本周五郎
- 脚本/菊島隆三、小国英雄、黒澤明
- 撮影/浜田毅
- 美術/小川富美夫
- 編集/田中愼二
- 音楽/大島ミチル
- 照明/渡辺三雄
- 録音/柴山申広
- 殺陣/中瀬博文
- 織田裕二
- 豊川悦司
- 松山ケンイチ
- 鈴木杏
- 村川絵梨
- 佐々木蔵之介
- 風間杜夫
- 西岡徳馬
- 小林稔侍
- 中村玉緒
- 藤田まこと
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