原題が『This Island Earth』なのに、『宇宙水爆戦』(1955年)という邦題はいかがなものか。ヤケに好戦的なタイトルである。
…とまあ、それは置いといて。本作は『地球の静止する日』(1951年)や『禁断の惑星』(1956年)等と並び、’50年代を代表するSF映画のひとつに数えられる名作。
レイモンド・F・ジョーンズの科学小説を読んだジョセフ・ニューマン監督が、えらく感銘を受け、映画化したいと自らプロダクションに企画を売り込んだというから、スタッフも相当気合いが入っていたんだろう。空飛ぶ円盤だとか宇宙都市だとか、レトロフューチャーなSF的意匠の数々は今観てもカッコイイです。
しかし、ここまで主人公が映画内で進行するドラマに関与しない作品も珍しい。主人公のルース・アダムズ博士は、エクセターと名乗る白髪男の研究所に連れてこられるやいなや、原子力実験に従事させられるのだが、身の危険を感じて女性科学者のカル・ミッチャム(あまり可愛くない)と共に脱出。
しかし実は宇宙人だったエクセターにすぐ捕まり、遊星国ゼーゴンと交戦中のメタルーナ星に拉致される。ゼーゴンからの攻撃を防ぐためには原子力による防衛システムの構築が必要だったのだ。しかし到着した時には既にメタルーナ星は壊滅状態で、結局地球へとんぼ帰りすることになるんである。
別に主人公の八面六臂の活躍によって地球が救われるというお話ではないし、っていうか地球は何も危機を迎えていないし、ただ遥か彼方の外宇宙にあるメタルーナ星が滅びてしまうのを、ぼけーっと傍観するだけのお話。
邦題は『宇宙水爆戦』だが、派手な惑星間のスペース・バトルが繰り広げられる訳でもなく、ゼーゴンから雨あられとばかりに発射される流星群に対して、メタルーナ星はただただ防戦一方なだけ。高揚感もカタルシスも感じられない展開には、ちょっとびっくりする。
この映画が公開された1955年は、依然米ソ両陣営による冷戦構造が支配してはいるものの、朝鮮戦争の休戦が合意されたり、ソ連と西ドイツが国交を樹立するなど、雪解けの兆候が見えてきた時代でもあった。
軍拡をガンガン推進するという風潮に一端は歯止めがかかったことが、このようなストーリーラインを形成する一助になったのかもしれない。
ちなみに本編に登場するクリーチャーの“メタルナミュータント”は、『大アマゾンの半魚人』(1954年)のデザインも担当したミリセント・パトリックの手によるもので、その卓越した造形センスは当時の円谷プロにも影響を与えたんだとか。
今なお熱心なSFマニアから支持を受けており、フル可動ボディの人形も発売されていたりするので、興味があれば皆さんも買うといいです。
↑コイツ。若干キモイすけど。。
- 原題/This Island Earth
- 製作年/1955年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/86分
- 監督/ジョセフ・ニューマン
- 原作/レイモンド・F・ジョーンズ
- 脚本/フランクリン・コーエン、エドワード・G・オキャラハン
- 製作/ウィリアム・アランド
- 撮影/クリフォード・スタイン、デヴィッド・S・ホスリー
- 特殊効果/チャールズ・ベイカー、デヴィッド・S・ホスリー、クリフォード・スタイン
- 音楽/ジョセフ・ガーシェンソン
- 美術/アレクサンダー・ゴリッツェン、リチャード・H・リーデル
- メイクアップ/バド・ウエストモア
- ミュータント・デザイン/ミリセント・パトリック
- フェイス・ドマーグ
- レックス・リーズン
- ジェフ・モロー
- ラッセル・ジョンソン
- ランス・フラー
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