欲望と閉塞、そして艶を纏う新選組の男たち
新選組と閉塞感が生む淫美な欲望
『御法度』(1999年)は、大島渚の遺作にして、血をたぎらせるようなエロティシズムに満ちあふれた作品である。静謐な映像美の中に仕込まれた官能、新選組という死と隣り合わせの環境で生まれる情欲。ここに描かれるのは「生と死」ではなく、「性と死」の交錯するテキストだ。
厳格な戒律と指揮系統によって統制された新選組は、近藤勇と土方歳三による独裁体制で運営されている。幕末という動乱の時代にあって、彼らは進歩的思想から取り残された閉鎖的軍団であった。その閉塞感は鬱屈とした欲望を生み、ただれたエロティシズムを生成する。『御法度』は何よりもまず、その淫美な空気を嗜むべき映画である。
映像美が先行する作品である以上、美術や衣装も写実主義的ではない。ワダエミが手がけた新選組の隊服は、黒を基調としたアヴァンポップなデザインで、史実に忠実であることよりも美学的効果を優先する。あえてラフに着崩された襟元から覗く胸元は実に妖しく、実に官能的であり、スクリーン全体に艶を撒き散らす。
“艶”を体現するキャストの存在感
近年の舞台出身俳優にありがちな「小市民の顔」をした二塁手的な存在には艶がない、と村上龍が指摘したことがある。確かに映画に求められるのは、観客を恍惚へと導く妖しいオーラだ。
その点、『御法度』に出演したビートたけし、浅野忠信、武田真治、そして新選組を動揺させる松田龍平には、狂気を帯びたエロティシズムが確かに備わっていた。彼らの存在がスクリーンを異様な色彩で満たしていく。
この作品に漂う倒錯的なエネルギーは、大島渚の前作『戦場のメリークリスマス』(1983年)にも連なるものだ。デヴィッド・ボウイや坂本龍一が作り出した異様な緊張感とエロティシズムを、松田龍平が継承する。まだ17歳だった彼が放つ美少年としての危うさは、まさに「逆ベルばら」的世界観を現出させ、観客を陶酔と恍惚へといざなう。
『御法度』は、新選組という史実を借りながらも、その史実性を超越して「性と死」の寓話へと変貌させた。秩序が強ければ強いほど、それを突き崩そうとする欲望は激烈になる。大島渚は晩年に至って、性愛の根源的な力と死の影とを重ね合わせ、最後にして最大のタブー破りを成し遂げたのだ。
- 製作年/1999年
- 製作国/日本
- 上映時間/100分
- 監督/大島渚
- 脚本/大島渚
- 製作/大谷信義
- プロデューサー/大島瑛子、中川滋弘、清水一夫
- 原作/司馬遼太郎
- 衣装/ワダエミ
- 音楽/坂本龍一
- 照明/竹久博司
- ビートたけし
- 松田龍平
- 武田真治
- 浅野忠信
- 崔洋一
- 的場浩司
- 神田うの
- 坂上二郎
- トミーズ雅
- 伊武雅刀
- 田口トモロヲ
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