『御法度』には、血をたぎらせるようなエロティシズムが溢れている。
静謐な映像美のなかに仕込まれた官能。新撰組という死と隣り合わせの環境の中で、情慾は加速度的にかきたてられていく。
セックスに対するアドレナリンが溢れっぱなしの映画、まさにこれは「生と死」ではなく「性と死」についてのテキストである。
厳しい戒律と指針をもって統制された新選組は、近藤勇と土方歳三による強力な独裁体制で機能している。尊王攘夷の気運が高まった幕末において進歩的思想に取り残された新選組は、閉鎖的な時代のなかでも一際閉鎖的な軍団であった。
その閉塞感が、ただれたエロティシズムを生成する。『御法度』は何よりもまず、その淫美な空気を愛でるべき映画なのだ。
映像美が先行する映画だから、当然美術や衣装もリアリスティックなそれではない。ワダエミがデザインした新選組の隊服は、黒を基調としたアヴァンポップ・テイスト。
あえてラフに着つけた隊服の襟から覗く胸元は、実にアヤシく実に官能的。おすぎとピーコが観たら大喜びすること間違いなしである。
艶のない映画はつまらない。最近、舞台系の役者がテレビや映画で活躍しているが、彼等は一様に「小市民」の顔をしている。村上龍も指摘していたが、「野球でいえば二塁手」の顔が幅をきかせてきた。彼等には艶がないし、それじゃあ映画はつまらない。
ビートたけし、浅野忠信、武田真治、そして新選組を危機的な状況に追い込む松田龍平、『御法度』には狂気をたたえたエロティシズムを芳香させる役者が揃っている。
それは前作『戦場のメリークリスマス』のデヴィッド・ボウイ、坂本龍一の系譜を継ぐ存在だ。彼等の存在が「逆ベルばら」的世界を構築し、恍惚へといざなう。
- 製作年/1999年
- 製作国/日本
- 上映時間/100分
- 監督/大島渚
- 脚本/大島渚
- 製作/大谷信義
- プロデューサー/大島瑛子、中川滋弘、清水一夫
- 原作/司馬遼太郎
- 衣装/ワダエミ
- 音楽/坂本龍一
- 照明/竹久博司
- ビートたけし
- 松田龍平
- 武田真治
- 浅野忠信
- 崔洋一
- 的場浩司
- 神田うの
- 坂上二郎
- トミーズ雅
- 伊武雅刀
- 田口トモロヲ
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