『理由』(1995)
映画考察・解説・レビュー
『理由』(原題:Just Cause/1995年)は、死刑囚の冤罪を訴える手紙を受け取った法学部教授ポール(ショーン・コネリー)が、かつて起きた少女殺害事件の真相へ踏み込んでいく社会派サスペンス。再調査の中で、脅迫まがいの取り調べや証拠捏造の疑いが浮かび上がり、警察権力と司法制度の歪みが露呈していく。だが、裏で糸を引く連続殺人犯ブレア・サリバンの存在が明らかになることで、物語は一転してスリラーへと加速し、ポールは正義と罠の境界で追い詰められていく。
社会派ドラマとして始まる物語
『理由』(1995年)は、なんとも奇妙なサスペンス映画だ。
主人公は、死刑囚ボビーの冤罪を晴らすべく奮闘する、死刑反対論者の法学部教授(ショーン・コネリー)。、『ミシシッピー・バーニング』(1988年)、『評決のとき』(1996年)にも通底する、黒人差別問題を正面から描いた社会派ドラマとして幕を開ける。
物語は、『ミシシッピー・バーニング』(1988年)、『評決のとき』(1996年)といった、黒人差別問題を正面から描いた社会派ドラマとして始まる。
しかしそれは、観客を意図的にミスリードする仕掛けにすぎなかった。
サイコ・スリラーへの変貌、そしてB級アクションへ
物語が進むと、真犯人はマッド・シリアル・キラーのブレア・サリバンであることが明らかに。ここから一転して、『羊たちの沈黙』(1991年)を彷彿とさせるサイコ・スリラー展開に。猟奇殺人鬼が登場し、事件の背後に潜む狂気が描かれる。観客は「司法ドラマ」から「猟奇犯罪スリラー」への急激なジャンル転換を体感させられる。
しかし、緊張感ある展開は長続きせず、スリラーとしての深みも不十分。あくまで社会派から次のジャンルに移るための“通過点”にすぎない印象を残す。
さらに驚くべきは、終盤で物語が唐突にアクション映画へと変貌することだ。爆発、銃撃、追跡劇──ハリウッド的大味展開に雪崩れ込み、社会派ドラマとしての重厚さは完全に置き去りにされる。
しかも結末は、「やはり真犯人はボビーだった」という定石的なオチ。ミステリーの底は割れており、予想を裏切るどころか、逆に予定調和に落ち着いてしまう。
黒人差別問題の扱いへの違和感、キャラクターと動機の弱さ
本作の最大の問題点は、黒人差別というデリケートなテーマが、あくまで“観客を惑わせるトリック”として利用されている点だ。差別問題自体を真剣に描き切ることなく、サスペンスの仕掛けにしてしまう。そのため観終わった後にカタルシスが得られず、むしろ後味の悪さが残る。
警察によるボビーへの拷問も描かれるが、その暴力は裁かれることなく物語が終わってしまう。正義を標榜するはずの司法制度が、ここではただ観客を翻弄する“ネタ”にしかなっていない。
物語上も疑問点は多い。ボビーの復讐対象が「自分を拷問した警察」ではなく、かつての弁護人(ケイト・キャプショー)であることは不自然だ。彼の狙いが「出世欲のために自分を見捨てた弁護士の抹殺」というのは分かるが、拷問を加えた警察に矛先が向かわないのは説得力を欠く。
また、ボビーは拷問で性器を切断されており、殺された少女の解剖結果とつじつまが合わない点もある。結局、プロット全体が強引で、観客を納得させるには不十分だ。
ショーン・コネリーの存在感と限界
主演のショーン・コネリーは、正義の象徴でありながら家族を守ることに終始する父親を演じる。だが、最終的には「これが正義か?」というボビーの問いに言葉を失う姿が残されるだけで、道徳的メッセージは曖昧なまま終わる。社会派ドラマに期待した観客は肩透かしを食らうだろう。
他にも共演陣はローレンス・フィッシュバーン、エド・ハリス、ケイト・キャプショーと実に豪華。だが物語自体はB級テイストが強く、A級キャストとB級プロットのギャップがむしろ面白さを生む。観客は「大物俳優が集まったのに、なぜこんな映画になってしまったのか」と首をひねるはずだ。
ショーン・コネリーとケイト・キャプショーが演じる歳の離れた夫婦設定は、伏線かと思いきや単に「コネリー爺が若い女性好き」という描写にすぎなかった。また、どう見ても孫にしか見えない娘役を演じていたのは、後に大スターとなるスカーレット・ヨハンソン。彼女の初期出演作として注目する価値はある。
『ミシシッピー・バーニング』のような社会派から始まり、『羊たちの沈黙』風スリラーを経て、最後はB級アクションに堕ちていく──。ジャンルが三段階で変貌する珍妙な構造を持つ作品だ。
社会問題をトリックに利用する発想は一見ユニークだが、結果的にはテーマを消費して終わるだけ。サスペンスとしてもアクションとしても中途半端で、映画としての完成度は高くない。
映画史的に見れば「大物俳優と若きヨハンソンが同居する不思議なB級映画」として記憶される作品だろう。
- 原題/Just Cause
- 製作年/1995年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/102分
- ジャンル/サスペンス
- 監督/アーネ・グリムシャー
- 脚本/ジェブ・スチュアート、ピーター・ストーン
- 製作/リー・リッチ、アーネ・グリムシャー、スティーヴ・ペリー
- 製作総指揮/ショーン・コネリー
- 原作/ジョン・カッツェンバック
- 撮影/ラヨシュ・コルタイ
- 音楽/ジェームズ・ニュートン・ハワード
- ショーン・コネリー
- ローレンス・フィッシュバーン
- ケイト・キャプショー
- ブレア・アンダーウッド
- ルビー・ディー
- エド・ハリス
- ネッド・ビーティ
- ケビン・マッカーシー
- クリス・サランドン
- クリストファー・マーレイ
- スカーレット・ヨハンソン
- ダニエル・J・トラヴァンティ
- 理由(1995年/アメリカ)
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