サスペンス映画の野心作を数多く放ってきたシドニー・ルメットが、90年代に入ってその衰弱を露呈してしまった作品。
題材は、『セルピコ』に代表されるような、ルメット十八番の「警察腐敗モノ」。ベテラン刑事ブレナン(ニック・ノルティ)が“正当防衛”で麻薬の売人を射殺する事件が発生し、新米地方検事補アル(ティモシー・ハットン)は、Q&A(尋問調書)の作成にとりかかる。
形式だけの簡単な事件だったはずが、召喚した目撃者の証言がブレナンの主張と一致しないことから、故意の殺人ではないか?という疑惑を濃くしていく。
結局ブレナンの裏の顔はラリー・ペッシュ(ドミニク・チェイニージ)率いるマフィアの殺し屋で、殺人課課長ケヴィン・クイン(パトリック・オニール)までもが裏で糸をひいていて、プエルトリカン・マフィアのボビー・テキサドール(アーマンド・アサンテ)の命を狙っていた…。
利害関係・対立関係が複雑に入り乱れており、観ているこっちは今一つ三者関係が立体的に浮かび上がらず、筋を追うのになかなか苦労する。しかも社会派のルメットは、警察腐敗だけを物語のコアに置くのは良ろしくない!と考えたのか、人種差別問題も大々的に盛り込んでいたりするので、いよいよ混乱の極み。
主人公のアルが、かつてのガールフレンドのナンシー(ジェニー・ルメット)の父親がネグロイドだったことにあからさまな差別感情を表情に出してしまい、ナンシーはショックのあまり子供を堕ろすとか、メルティング・ポット(人種のるつぼ)であるニューヨークのアンダーグラウンドを露悪的に暴き出す。
自らがシナリオを書き、社会に対する怒りをありったけブチまけた『Q&A』は、しかしながら当時のシドニー・ルメットでは全ての要素を消化しきれず、キレ味の悪い作品になってしまっている。
ニック・ノルティがボートを引火して爆発させるシーンなんぞ、船内を捜索するマフィア、油が浮いた水面のカットバックでサスペンスを増幅させようとしているんだが、これが全然緊張感なし。この映画で唯一まばゆい光を放っているのは、ニック・ノルティの暴走ぶりだけだ。
- 原題/Q&A
- 製作年/1990年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/135分
- 監督/シドニー・ルメット
- 製作/アーノン・ミルチャン、バート・ハリス
- 製作総指揮/パトリック・ウォッシュバーガー
- 原作/エドウィン・トレス
- 脚本/シドニー・ルメット
- 撮影/アンジェイ・バートコウィアク
- 音楽/ルーベン・ブラデス
- ニック・ノルティ
- ティモシー・ハットン
- アーマンド・アサンテ
- パトリック・オニール
- リー・リチャードソン
- ルイス・ガスマン
- チャールズ・ダットン
- ジェニー・ルメット
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