亀山千広プロデュースにしては珍しく骨組のしっかりしたミステリー映画
えー、『容疑者Xの献身』(2008年)である。
直木賞はもとより、本格ミステリ大賞、このミステリーがすごい!、週刊文春ミステリベスト10など、主要ミステリー・ランキングでことごとく1位を獲得したこともあって、東野圭吾の原作は一応読んではいた。
しかし、湯川学を福山雅治が演じるTVドラマ・シリーズは、通俗的な面白さにもたれかかっているような印象があったので(あくまで予告編だけの印象ですが)、何となくスルーしてしまっていた。
だって、アレでしょ?福山がコントみたいなステレオタイプ芝居を披露して、ことあるごとに低音ヴォイスで「それは面白い」って言うヤツでしょ?事件の解明シーンになると、あらゆる数式がショボいCGで画面いっぱいに飛び回って、けたたましいギター・サウンドがBGMで流れるヤツでしょ?
うーん、全く食指が動きませんわ。しかし、いつものごとくポテチをつまみつつTVをダラ見していたら、たまたま『容疑者Xの献身』をやってたので、何の気もなしにそのままダラ見してしまったんである。
…告白してしまおう。いくつかの瑕疵があるものの、この作品は意外な力作である。TV版のようなチャラけた演出は影を潜め、驚くほど精密に、驚くほど丁寧な演出が施されている。
監督は、TV版と同じ西谷弘。映画は『県庁の星』(2006年)に続き2作品目だが、TVでは、『天体観測』(2002年)、『白い巨塔』(2003年)、『エンジン』(2005年)など数多くの人気ドラマを手がけてきたヒットメーカーである。
TVドラマが映画化される場合、しかも演出を手がけるのがTV版と同人物だった場合、ダイナミックな演出に対する飢餓があるためか、やたらクレーン撮影が多用される気がするんだが、『容疑者Xの献身』もその例にもれず、序盤からクレーン撮影が使われている。
曇天模様の空のもと、寒々とした川の土手を滑るようにカメラが移動し、警察が全裸の被害者を検死するのを真上から捉える…。TV版とは違って、オーソドックスながらも流麗な語り口に、思わず身を乗り出してしまった。
ホームレスが住む川沿いの道を、寝ぼけた表情の堤真一がただ横切る場面もいい(実はこのシーンがサスペンスの伏線にもなっている)。堤真一の抱える倦怠感、人生の孤独が静かなタッチで描出されている。
正直、妄信的な恋慕がドラマの核になっている原作を忠実に映像化してしまうだけでは、そうとう地味な映画になってしまう。それを恐れて、仰々しい演出を施すと思いきや、実に王道の、しかしながら確信に満ちた演出ぶりに、僕は好感を覚えてしまった。
原作にはなかった雪山への登山シーンは水マシ気味だし、柴崎コウはまったく存在感がないし、福山雅治の気取った芝居には胃もたれを感じてしまう。
しかし『容疑者Xの献身』は、大味な作品ばかりを大量生産しているフジテレビ系列映画(正確にいえば亀山千広プロデュース映画)にしては珍しく、骨組のしっかりした作品である。何よりも映画の品格が感じられるところが好きです。
ちなみにこの『容疑者Xの献身』、2012年に韓国で『容疑者X 天才数学者のアリバイ』が、2017年に中国で『嫌疑人X的献身』(※日本未公開)がリメイクされている。実は、アジア映画界に大きな影響を与えた作品でもあるのだ。
- 製作年/2008年
- 製作国/日本
- 上映時間/128分
- 監督/西谷弘
- 製作/亀山千広
- 企画/大多亮
- 脚本/福田靖
- 音楽/福山雅治、菅野祐悟
- エグゼクティブプロデューサー/清水賢治、畠中達郎、細野義朗
- プロデュース/鈴木吉弘、臼井裕詞
- プロデューサー/牧野正、和田倉和利
- プロデューサー補 /大西洋志、菊地裕幸
- 撮影/山本英夫
- 照明/小野晃
- 美術/部谷京子
- 録音/藤丸和徳
- 編集/山本正明
- 福山雅治
- 柴咲コウ
- 北村一輝
- 渡辺いっけい
- 品川祐
- 真矢みき
- ダンカン
- 長塚圭史
- 松雪泰子
- 堤真一
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