トシロー・ミフネを愛でよ!荒唐無稽なスパゲッティ・ウェスタン
日本が世界に誇るスター、トシロー・ミフネ。しかし彼のフィルモグラフィーを見返してみると、欧米資本の映画ではあまり作品に恵まれていないことに気がつく。
黒澤明を信奉しているジョージ・ルーカスが、三船敏郎に『スター・ウォーズ』(1977年)のオビ・ワン役をオファーするも、「俺様はSF映画は好かーん!」とすげなく断ってしまい、千載一遇のチャンスを逃してしまったのは有名な話だ。
その後も、スティーヴン・スピルバーグの壮大なる失敗作『1941』(1979年)に嬉々として出演したかと思えば、ノリユキ・パット・モリタがアカデミー助演男優賞にノミネートされて大成功を収めた、『ベスト・キッド』(1984年)のミヤギ役は断るなど、審美眼の悪さは致命的。
三船敏郎は、「サムライ・ソウルを持った前時代的日本人」というイメージを、生涯打破できなかったんである。そんなイメージを決定付けてしまったのが、フランス・イタリア・スペインの合作映画 『レッド・サン』(1971年)だろう。
日米修好の任務を帯びた日本国大使の一行が、帝から賜った大事な宝剣を列車強盗団に奪われてしまい、それを奪い返さんとサムライとカウボーイが手を組むという、荒唐無稽なスパゲッティ・ウェスタン。
チャールズ・ブロンソン、アラン・ドロン、そして我らがトシロー・ミフネという三大スターが共演!監督は、『007 ドクター・ノオ』(1962年)や『007 ロシアより愛をこめて』(1963年)など、初期『007』シリーズを手がけた名匠テレンス・ヤング。音楽は、『アラビアのロレンス』(1962年)や『ドクトル・ジバゴ』(1965年) でアカデミー作曲賞を受賞している、モーリス・ジャール。贅沢極まりない布陣だ。
トシロー・ミフネは、忠義のために生き、忠義のために死ぬ凄腕のサムライを、威風堂々と熱演。銃弾が飛び交う中、単身刀を携えてバッタバッタと敵を斬り殺してくサマは、ほとんど『ルパン三世』の石川五右衛門状態。
胸がデカイだけの頭の悪そうなヒロインには眼もくれず、大事な宝剣を取り戻すというミッションに身を捧げる姿に、拍手喝采を送りたくなる。かと思いきや、娼館では南米美女ときっちり夜のバトルも繰り広げていて、まだまだ現役であることもアピール。
普通こういうストイックなキャラなら、女人との秘め事なんぞ「侍の風上にもおけぬ!」とやんわり断りそうなものだが、チャールズ・ブロンソン、アラン・ドロンという米仏の二大スターの前にして、据え膳を食わぬことは日本男児の沽券に関わると考えたのだろう。ミフネ兄貴、さすがです!自分も兄貴を見習って、世界中の美女と一戦交える覚悟です!
『レッド・サン』で、三船敏郎は国際派スターの仲間入りを果たした。しかし『レッド・サン』のイメージが、その後のトシロー・ミフネを決定づけてもしまった。彼の晩年の不幸は、もしかしたらこの時期から始まっていたのかもしれない。
- 原題/Red Sun
- 製作年/1971年
- 製作国/フランス、イタリア、スペイン
- 上映時間/112分
- 監督/テレンス・ヤング
- 製作総指揮/テッド・リッチモンド
- 製作/ロベール・ドルフマン
- 脚本/レアード・コーニッグ、ローレンス・ロマン
- 音楽/モーリス・ジャール
- 撮影/アンリ・アルカン
- 美術/ポール・アポテケール
- 編集/ジョニー・ドワイヤー
- チャールズ・ブロンソン
- 三船敏郎
- アラン・ドロン
- ウルスラ・アンドレス
- キャプシーヌ
- モニカ・ランドール
- 田中浩
- 中村哲
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