アンチ・ドラマティックに素描される、恋と友情の物語
“MV界のカリスマ”ことマーク・ロマネクとのファースト・コンタクトは、レニー・クラヴィッツの『Are You Gonna Go My Way』だった。
もう、問答無用でカッコいい!円形の小型ドームで、恍惚とした表情でギターをかき鳴らすレニクラを捉えつつ、広角レンズで360度パンする映像ダイナミズムに、一発でヤラれてしまった覚えあり。
セカンド・インパクトは、マイケル・ジャクソン&ジャネット・ジャクソンの『Scream』。同じく密室系モノクロ・ビジュアルに、シビれまくりだった。
そんな彼が、『天国からの中継』(1985年)、『ストーカー』(2002年)を経て監督第三作目に選んだ題材が、ブッカー賞受賞作家カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』(2010年)。
臓器提供のためだけに製造されたクローン人間によって、平均年齢が100歳を超える長命が可能となった世界。同じ寄宿学校で育った幼なじみの3人のクローン達の、恋と友情の物語が瑞々しいタッチで紡がれていく。
設定はSFなれど、ビジュアルは完全に英国式ロマンス。ジェーン・オースティンの古典的小説を映画化した『プライドと偏見』(2005年)で、ベネット4姉妹を演じたキャリー・マリガンと キーラ・ナイトレイが今作でも出演しているのは、至極当然なキャスティングなのだ。
そんなクラシックな装いをまとう物語を、マーク・ロマネクはMV時代の「彩度濃いめ・明度低め」の派手派手ビジュアルから一転させ、パステルカラーの淡い色調で描き出す。
同じくクローン人間をモチーフにした映画といえば、マイケル・ベイの『アイランド』(2005年)が挙げられる。クライアントへ臓器を提供するためだけにコミュニティで暮らしているクローン達が、その不条理性ゆえに反逆をおかすという、大味SFアクション大作だった。
しかし、この『わたしを離さないで』は反逆どころか、己の運命を驚くほど素直に、淡々と受け入れる。オリジナルを延命させるたけだけに“生”を付与されたクローン達の、驚くほどアンチ・ドラマティックな日常の素描によって、しかしながら映画は絶対的な強度を勝ち得ているのだ。
何かを期待しない人生、何かを期待できない人生。WEBではこの映画に対して「人生が凝縮している、ある意味で幸せな人生だったのかもしれない」と論調もあったが、最愛の彼と最良の友を臓器提供によって失ってしまう人生が、どー考えてもいい訳ない。
キャリー・マリガンの素朴な柔和スマイル&抑制的演技によって、痛切に満ちた諦観ライフを見せつけられ、我々観客は二の句も継げずに、ただただスクリーンの前で呆然自失となるばかり。
観終わったあとは、「クローン同士でセックスして、子供でも出来たらどうするんじゃ?」とか、「事故死の可能性が高い自動車運転なんかさせていいのかいな?」とか、余計な疑問が頭の中を渦まいたのだが、そんなことどーでもよーし!
『わたしを離さないで』は、近年稀に見る美しくも哀しいラブストーリーの傑作である。
- 原題/Never Let Me Go
- 製作年/2010年
- 製作国/イギリス、アメリカ
- 上映時間/105分
- 監督/マーク・ロマネク
- 製作/アンドリュー・マクドナルド、アロン・ライヒ
- 製作総指揮/アレックス・ガーランド、カズオ・イシグロ、テッサ・ロス
- 原作/カズオ・イシグロ
- 脚本/アレックス・ガーランド
- 撮影/アダム・キンメル
- プロダクションデザイン/マーク・ディグビー
- 衣装/レイチェル・フレミング、スティーヴン・ノーブル
- 編集/バーニー・ピリング
- 音楽/レイチェル・ポートマン
- キャリー・マリガン
- アンドリュー・ガーフィールド
- キーラ・ナイトレイ
- シャーロット・ランプリング
- イゾベル・ミークル=スモール
- チャーリー・ロウ トミー
- エラ・パーネル ルース
- サリー・ホーキンス
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