オンリー・ゴッド/ニコラス・ウィンディング・レフン

オンリー・ゴッド スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]

ヤバい。ヤバすぎる。デンマークの“遅れて来た鬼才”、ニコラス・ウィンディング・レフンの前作『ドライヴ』(2011年)に、完全ノックアウトされた小生にとって、再びライアン・ゴズリングと組んだ最新作『オンリー・ゴッド』(2013年)は期待大だったのだが、コイツは予想を遥かに超える怪作。

ニコラス・ウィンディング・レフン自身、「『ドライヴ』が質のいいコカインだとしたら、『オンリー・ゴッド』はLSD映画だ」というコメントをカマしている。身も心もシャブ浸け状態で観るのが最適っつーことか。

『ドライヴ』(ニコラス・ウィンディング・レフン)

舞台は、タイの首都バンコク。アメリカ人兄弟のビリー(トム・バーク)とジュリアン(ライアン・ゴズリング)はボクシング・クラブを経営しているが、裏では麻薬の密輸を牛耳っている。

やがてマフィアと警察は全面対決の様相を呈し、ジュリアンは母親で組織の首領のジェナ(クリスティン・スコット・トーマス)から、兄ビリーが殺された復讐を遂げるために、元警官のチャン(ウィタヤー・パーンシーガーム)に仇をとるように命じられる…。

マトモに観ると怪我をする。徒手空拳のはずのチャンの背中から、突然デカい刀が現れる時点で観ているこっちは思考停止状態。しかし、これはこれでいいのだ。

『オンリー・ゴッド』の原題は『Only God Forgives』、すなわち「神のみが赦しを与えられる」。チャンは、単にバンコクを取り仕切る法の番人ではなく、文字通りな意味での絶対神なのだ。

神は時に無慈悲で、その御心は計り知れない。チャンは、ビリーに娘を惨殺された父親に復讐を強要するのだが、彼がビリーを殺害したと知るや、それはルール外とばかりに片腕を切り落とす。

己を亡き者にせんとする敵に対しては、目玉をえぐりとる、耳を切り落とすという凶行に及ぶ。あまりにも不条理で非論理的だが、一般ピープルの道徳観・倫理観を超越した世界に神は鎮座しているのだ。一見すると『オンリー・ゴッド』は、オリエンタルなムードに包まれた「マフィア対警察」のバイオレンス・アクションのように見えるが、さに非ず!

かつてその拳で父親を殴り殺したジュリアン(ライアン・ゴズリング)が、マフィア稼業の家族を救うために“神”と対峙するも、腕を切り落とされる(殺される)ことで救済されるという、スピリチュアルな神話なのだ。チャンがカラオケで歌うシーンは、さしずめ信徒とのミサというところか。

その証拠に映画のラストには、「アレハンドロ・ホドロフスキーに捧ぐ」というクレジットが流れるではないか。ホドロフスキーこそ、神話的世界を映画というフォーマットに導入したカルト作家。

『オンリー・ゴッド』は、『エル・トポ』(1969年)や『ホーリー・マウンテン』(1973年)と同系列の神秘主義や無常観が漂う、スーパー・ナチュラル・ムービーなのだ。

アレハンドロ・ホドロフスキー DVD-BOX
『アレハンドロ・ホドロフスキー DVD-BOX』(アレハンドロ・ホドロフスキー)
DATA
  • 原題/Only God Forgives
  • 製作年/2013年
  • 製作国/デンマーク、フランス
  • 上映時間/90分
STAFF
  • 監督/ニコラス・ウィンディング・レフン
  • 製作/ニコラス・ウィンディング・レフン、レネ・ボーグルム、シドニー・デュマ、ヴァンサン・マラヴァル
  • 脚本/ニコラス・ウィンディング・レフン
  • 撮影/ラリー・スミス
  • プロダクションデザイン/ベス・マイクル
  • 編集/マシュー・ニューマン
  • 音楽/クリフ・マルティネス
CAST
  • ライアン・ゴズリング
  • クリスティン・スコット・トーマス
  • ヴィタヤ・パンスリンガム
  • ラータ・ポーガム
  • ゴードン・ブラウン
  • トム・バーク

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