アカデミー賞を独占した、飲んだくれ男の迫真ドラマ
僕は酒を嗜まない人間なので、アルコール中毒に苦しむ中年男の悲哀なんぞ皆目見当つかないし、むしろそんなの全然観たくないと思うタチである。
しかし、チャールズ・ジャクソンの小説を読んで、感銘を受けたというビリー・ワイルダーは、すぐさま『失われた週末』(1945年)の映画化に着手。
盟友チャールズ・ブラケットと共に、飲んだくれ男の迫真のドラマを作り上げ、最終的に第18回アカデミー作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞を獲得したんだから、実にめでたい。
売れない作家のドン・バーナム(レイ・ミランド)は、ままならない人生のストレスから酒を浴びるように飲むようになり、すっかりアルコール依存症になってしまう。
兄のウィック(フィリップ・テリー)や、恋人のヘレン(ジェーン・ワイマン)による献身的な介護の甲斐もなく、その症状はどんどん悪化。
遂には幻覚症状まで発症してしまい、バーナムは自分の運命を呪って拳銃自殺を決意するが…。とまあ、コメディーの名手のワイルダー作品とは思えないほど、切羽詰まったシリアスな物語が展開していく。
小道具を巧妙に配したワイルダーの職人的語り口や、役作りのために実際に酒の量を増やしたというレイ・ミランドの熱演ぶりなど、語るべきところは多々あるが、何よりも特筆すべきは、テルミンを大々的にフューチャーしたミクロス・ロージャによる音楽だろう。
ロシアの発明家レフ・セルゲーエヴィチ・テルミン博士によって発明されたこの電子楽器を、劇伴に使ったのは世界初。
「UFOが襲来したのか」と思うほど、SF的音色を発するテルミンを、登場人物の不安な心理状態を暗示する音響効果として活用する、というアイディアは、当時でもかなり革新的だったんではないか。
末期のアルコール依存症患者に成り果てたレイ・ミランドが、最後の最後で「俺、今度こそ克服するぜ!」って宣言して無理矢理ハッピーエンドで終わっているが、次の日になったら酒をガブ飲みしていることは火を見るより明らか。
救いようのない物語を、通俗的な娯楽作品としてまとめあげてしまうスキルは、やっぱワイルダーなんだなあと感心。
主題的にこれを通俗的に扱っていいものかどうかは置いといて、ですが。
- 原題/The Lost Weekend
- 製作年/1945年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/ 101分
- 監督/ビリー・ワイルダー
- 製作/チャールズ・ブラケット
- 原作/チャールズ・R・ジャクソン
- 脚本/チャールズ・ブラケット、ビリー・ワイルダー
- 撮影/ジョン・サイツ
- 音楽/ミクロス・ローザ
- 編集/ドーン・ハリソン
- 衣装/エディス・ヘッド
- レイ・ミランド
- ジェーン・ワイマン
- フィリップ・テリー
- ハワード・ダ・シルヴァ
- ドリス・ダウリング
- フランク・フェイレン
- メアリー・ヤング
- アニタ・ボルスター
- ルイス・L・ラッセル
- フランク・オース
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