あーーーーーーーーーーーーー重かった。
『ヨーロッパ』で名をあげたラース・フォン・トリアー監督による、カンヌ映画祭審査員特別大賞作品なのだが、幻想的寓話を愛欲とエロスでまぶし、その手触りは生爪をはがされたかのような痛切さ。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』もそうだったが、精神的に打ちのめされたいならこれに勝る映画はない。
エミリー・ワトソン演じる新妻・ベスは、オツムは弱いが“敬虔深く無垢な魂を持った女性”という設定。故に余計な駆け引きなどはせず、剥き出しの感情を夫にぶつけてくる。
夫をトイレに誘い込み、初めてのセックスに歓喜の表情を浮かべるベス。裸の夫の下半身に手を伸ばし、恍惚とした表情でセックスの期待に身をもだえるベス。
セックスとはお互いの感情を巻き込んで揺れ動くコミニュケーション・ツールだ。混じり気のない一本気な愛ゆえに、一切の澱みのない純粋さゆえに、新婚夫婦の愛欲は深まる。
しかしそれは、夫の事故による下半身不随という、突然の悲劇によって引き裂かれる。教会に日参しては夫の回復を祈る妻。
ところが夫は、セックスで妻を満足させられない自分の替わりに、他人とのセックスを強要する。そしてそれが自分が救われることになるのだと。女は夫の望み通り、見ず知らずの男とのセックスを繰り広げる。
しかしその時に彼女が浮かべる表情は、夫との性交で見せたあの歓喜の表情ではなく、頬を高潮させながらも必死に夫との約束を守ろうとする、哀しみに満ちた顔だ(憑かれたようなエミリー・ワトソンの演技がスゴイです)。
いやー何という野性、何というハードな愛!!こりゃ『ベティ・ブルー』以来の衝撃だ(何てったってサブタイトルが『愛と激情の日々』だし)。ラース・フォン・トリアー監督、果てはデンマーク映画の野心を見た思いなり。
各ダイアローグ毎に自然のパノラマ・ショットとロックが重なり、ドラマは重層的な広がりをみせる。ストーリーだけを追えば、エログロ系に走りそうなものだが、無垢すぎるベスの人物造形、激しいパッションを切り取る手持ちカメラの生々しい映像が、強度な情感をたきたてていく。
海に四方を囲まれ、信仰心厚く戒律が厳しい村を舞台に、最後は「神」という絶対的俯瞰によって帰着する。何かちょっと反則気味だけど。
という訳で、いい映画です。非常にいい映画です。いい映画なんだけど…重いです。「愛」っていうシロモノは、深く耽溺すればするほど重くなっていくもんなんだねえ…。
- 原題/Breaking The Waves
- 製作年/1996年
- 製作国/デンマーク
- 上映時間/158分
- 監督/ラース・フォン・トリアー
- 脚本/ラース・フォン・トリアー
- 撮影/ロビー・ミューラー
- 製作/ヴィベケ・ブルデレフ、ペーター・アールベック・ヤンセン
- 音楽/マーク・ウォーリック
- 視覚編集/ソーレン・バス、スティーン・ライダース・ハンセン、ニール・ヴァレンタン・ダル
- エミリー・ワトソン
- ステラン・スカースガード
- カトリン・カートリッジ
- ジャン・マルク・バール
- エイドリアン・ローリンズ
- ジョナサン・ハケット
- ウド・キア
- ミッケル・ゴープ
- ローフ・ラガス
- フィル・マッコール
- サラ・グッジョ
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