日本映画黄金期の圧倒的な美術力に酔いしれる、カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作
菊池寛の『袈裟の良人』を原作に、平安時代の男女の三角関係を描いた王朝物。
何でも大映のワンマン社長・永田雅一はこの企画に大乗り気だったにも関わらず、他のスタッフは映画化に消極的。怒り狂った永田は「俺ひとりでも作ってやる!」と息巻いて映画完成にこぎつけた、という逸話もアリ。
その甲斐あって、『地獄門』は第7回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞、第27回アカデミー賞でも衣裳デザイン賞と外国語映画賞に輝いた。
うっかりすると、タイトルからして黒澤明の『羅生門』(1950年)と間違えそうになるが、平安時代という舞台設定も一緒だし、「粗暴な武士が美女を無理矢理娶ろうとする」という展開も一緒だし、どっちも京マチ子が出てたりする。
…京マチ子!『羅生門』では小悪魔ビッチを演じていた彼女は、今作では夫に貞節を尽くす良妻を好演。しかしながら京マチ子の体躯から醸し出されるのは、単なるお色気ではなく、この世のものとは思えないほどの妖気。
従って、「いつかコイツは旦那をたぶらかせて、悪妻の本領を発揮するに違いない」という深読み(でも間違い)を、観客にさせてしまうのだ。
主役である長谷川一夫演じる盛遠も、映画序盤までは一本気な快男児だったものの、京マチ子に横恋慕してしまうあたりから様相がオカしくなり、ストーカーのごとく彼女を追い回した挙げ句、「俺の心を聞き入れてくれなければ、お前も夫も叔母も殺す!!」と言い放つ。
じゃれる子犬にすら蹴りをくらわせる始末だ。ある意味で『地獄門』は、カッコイイとされていた武士的な価値観が崩壊する物語でもある。
時代劇とは思えぬほどアクション・シーンが簒奪されているのは、そんなところにも起因しているのかもしれない。
『地獄門』は大映初の総天然色映画作品であり、その絢爛たる色彩感覚には息を飲む。衣装デザインを担当した和田三造はもともと洋画家を本業とする人物だったが、日本色彩研究所を設立した研究者でもあり、そのデザイン・センスには周到な計算と論理的思考が働いている。
正直この映画、お話としては相当ヌルいんだが、日本映画黄金期の圧倒的な美術力に酔いしれるだけでも価値があると思います。
- 製作年/1953年
- 製作国/日本
- 上映時間/89分
- 監督/衣笠貞之助
- 製作/永田雅一
- 原作/菊池寛
- 脚色/衣笠貞之助
- 撮影/杉山公平
- 美術/伊藤憙朔
- 音楽/芥川也寸志
- 技術監督/碧川道夫
- 助監督/三隅研次
- 長谷川一夫
- 京マチ子
- 山形勲
- 黒川弥太郎
- 坂東好太郎
- 田崎潤
- 千田是也
- 清水将夫
- 石黒達也
最近のコメント