「いかにチャン・ツィイーをプリティーに撮るか」に一点集中した、完全無欠のラブストーリー
『初恋のきた道』(2000年)とは、どんな映画なのか。
中国が世界に誇る“アジアン・ビューティー”チャン・ツィイーが、野山駆けずり回ったり、豪雪のなか愛する人を待ち続けたり、井戸に水を汲みにいったり、弁当つくったりする映画である。これじゃどんな映画がさっぱり分からないかもしれないが、とにかくそーゆー映画である。
まずは、巨匠チャン・イーモウの潔い演出に刮目すべし。物語の背景となる文化大革命の描写なんかは、徹底して無視(若い男女が引き離される理由であるにもかかわらずだ)。ただひたすら「いかにチャン・ツィイーをプリティーに撮るか」に一点集中。
ベルナルド・ベルトリッチならば、中国共産化への道程を細密に描きながら、歴史に翻弄される男女をシニカルに描くだろう。フランソワ・トリュフォーならば、男女の機微をウィットに富んだ演出でまとめあげるだろう。しかし、チャン・イーモウはとことんチャン・ツィイー礼賛路線。あっぱれ。
よって『初恋のきた道』は、「初々しくて健気で可憐なチャン・ツィイーのクローズアップが、ひたすら映し出される映画」に仕上がっており、一見するとグラビアアイドルが海辺ではしゃいだりする映像と、演出が何ら変わらないような気がしてしまうのだが、それはそれでいいのである。だってそれが狙いなんだもん。
ほとんどストーカーまがいの彼女の行動も、「意地らしい」の一言ですませられてしまうのだから、その手腕や恐るべし、である。
だからといって、この作品を「チャン・ツィイーのプロモーション映画」と言う気は毛頭ない。文革の流れによって、引き裂かれてしまった若い男女の清冽なラブストーリーを描くにあたって、チャン・イーモウは最もエモーショナルに観客に訴えかける手段を選択したに過ぎない。
純朴すぎるくらいにピュアな眼差しを観客に向ける、チャン・ツィイーという格好の女優を得て、『初恋のきた道』は完全無欠のラブストーリーとして成立し得たのである。
- 原題/The Road Home
- 製作年/2000年
- 製作国/中国、アメリカ
- 上映時間/89分
- 監督/チャン・イーモウ
- 製作/チャオ・ユイ
- 製作総指揮/チャン・ウェイピン
- 脚本/パオ・シー
- 撮影/ホウ・ヨン
- 音楽/サン・パオ
- 美術/ツァオ・ジュウピン
- 編集/チャイ・ルー
- チャン・ツィイー
- スン・ホンレイ
- チョン・ハオ
- チャオ・ユエリン
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