リベラル急進派のウォーレン・ヴィーティーがとにかく頑張る、巻き込まれ型サスペンス
長引くベトナム戦争、深刻化する東西冷戦構造。ジョン・F・ケネディとその弟のロバート・ケネディが暗殺され、ウォーターゲート事件でリチャード・ニクソンが大統領が辞任。そんな時代背景を舞台にして、ハリウッドで矢継ぎ早にリリースされたのが、「巨大国家権力に立ち向かう、非力な一般人」という構図のサスペンス映画である。
アメリカは実質的にCIAに牛耳られており、反対勢力には魔の手が及ぶ、というある種の都市伝説がリアリティーをもって語られるようになったのだ。
その最右翼としてまず名前が挙がる監督といえば、アラン・J・パクラ。『大統領の陰謀』(1976年)、『ソフィーの選択』(1982年)、『推定無罪』(1990年)、『ペリカン文書』(1993年)などなど、そのフィルモグラフィーは社会派の良質なポリティカル・サスペンスばかり。
ロングショットの多用、ハイキーの格調高い映像、感傷性を排したストイックな語り口。紛うこと無きパクラ演出によって、良作がリリースされ続けたんである。
しかし「感傷性を排したストイックな語り口」とは「妙にもったいぶった語り口」と同義。手がけるお話がちょっと荒唐無稽系になってしまうと、アラン・J・パクラにケレン味などは望むべくもなく、語り口が鈍重なものになってしまう。
彼の持ち味である硬質な演出とソリッドな映像設計が、物語を停滞させるブレーキと化してしまうんである。『パララックス・ビュー』(1975年)は、明らかにその失敗例として語られるべき作品だろう。
原作は、ローレン・シンガーによる同名小説。次期大統領と目される上院議員がシアトルで暗殺され、事件調査委員会は狂信的愛国者による犯行だと発表する。しかし、暗殺現場に居合わせた人間たちが次々と不慮の死を遂げていることから、新聞記者のジョー・フラディ(ウォーレン・ベイティ)は、事件の裏に巨大な暗殺組織の影を嗅ぎ取る。
それは、一般ピーポーから反社会的分子を探しだし、暗殺者としてスカウトするというシンジケートであった。やがてジョーは命の危険を冒して、組織に接触しようとする…というのが大まかな粗筋。相当現実離れした話なのだ。
こんな映画をストイックすぎるいつものパクラ節で押し通してしまうんだから、カタルシスなんぞ微塵もなし。もともとアクション描写など手がけたことのない監督だけに、酒場でのウォーレン・ベイティと保安官との大立ち回りなど、その唐突さに目が点になってしまう。
格調高いゴードン・ウィルスのカメラ、緊張感をアオるマイケル・スモールのスコアは文句のつけようもなく素晴らしいんだが、演出スタイルと物語の指向性がアンマッチな印象なのだ。
という訳でこの『パララックス・ビュー』、リベラル急進派のウォーレン・ヴィーティーが自己満足のために出演した映画っていう結論で、この稿の筆を折らせていただきます。
- 原題/The Parallax View
- 製作年/1975年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/ 103分
- 監督/アラン・J・パクラ
- 製作/アラン・J・パクラ
- 製作総指揮/ガブリエル・カツカ
- 原作/ローレン・シンガー
- 脚本/デヴィッド・ガイラー、ロレンツォ・センプル・Jr
- 撮影/ゴードン・ウィリス
- 編集/ジョン・W.ウィーラー
- 美術/ジョージ・ジェンキンス
- 音楽/マイケル・スモール
- ウォーレン・ベイティ
- ウィリアム・ダニエルズ
- ヒューム・クローニン
- ステイシー・キーチ・Sr
- ウォルター・マッギン
- ポーラ・プレンティス
- ケネス・マーズ
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