『ピアニストを撃て』(1960)
映画考察・解説・レビュー
『ピアニストを撃て』(原題:Tirez sur le pianiste/1960年)は、フランソワ・トリュフォー監督によるフランス映画。かつて名ピアニストとして知られたエドゥアール・サローヤン(シャルル・アズナヴール)は、妻の自殺を機に名を捨て、場末の酒場で“シャルリ・コレール”として生きている。ある夜、裏社会に関わる兄シコが現れたことで、彼の静かな日々は崩れ始める。トリュフォー作品の中でも最も実験的・ユーモラスな悲劇として位置づけられている。
物語
酒場のしがないピアノ弾き、シャルリ・コレール。彼はかつてエドゥアール・サローヤンという名を馳せたピアニストだったが、妻の自殺を機に過去の自分と決別したのだった。
やがて酒場のウェイトレス・レナと心通わすようになったシャルリだったが、 やくざ者の兄シコのいざこざからギャングの2人組に追いかけられ、銃撃戦に巻き込まれたレナは雪山で絶命する…。またいつものように、酒場に戻ったシャルリ。終幕。
構造
『ピアニストを撃て』は、虚無的でありながらウィットに冨んだ映画だ。諦観をオフビートに演出したって、そこには絶望しかない。トリュフォーはこの悲劇的な映画にありったけのエスプリをまぶし、みずみずしいほどの化学反応を引き出す。
ギャングの一人の「自分がもし嘘をついていたら、母親が卒倒するだろうよ!」というセリフのあとに、母親がホントに卒倒するシーンをインサートさせてみたり、金でシャルリとレナの住所を売った酒場の主人を、スプリットの画面で見せてみたり。うーん、トレビアン。
構造2
熱烈なヒッチコキアン(アルフレッド・ヒッチコックのファン)だったトリュフォー。彼はヒッチの持論でもあった「セリフに頼るのではなく、映像で観客に理解させる」という“映画術”に対しても忠実だった。
例。シャルリが、シュミールに誘われて音楽事務所に向かうシーン。シャルリがドアに入ると同時に、カメラは事務所から出て来たバイオリニストの女性を追う。聞こえてくるシャルリのピアノの旋律。思わず立ち止まり、そのピアノに聞き入る女性。シャルリが卓越したピアニストであることを明快に表現している。
僕がこの映画で最も好きなシーンは、酒場で給仕らしきヒゲ男が、珍妙な歌を歌うシーンだ。
アバニーとフランソワーズ 悩ましいおっぱいだ
貧弱な胸を 豊かにしようと 整形手術を試みた
知る人ぞ知る 彼女の秘密 美乳と離乳は微妙な差
美容院か 病院か
胸と金のない人はお断り
うーん、いい歌だなあ。
男
主人公のピアニスト、シャルリ・コレールを演じるはシャルル・アズナヴール。『機動戦士ガンダム』の“赤い彗星”こと、シャア・アズナブルの名前の元ネタとも言われている、有名なシャンソン歌手である。
臆病で小心者な小男を演じる彼は、驚くほどフランソワ・トリュフォーとクリソツだ。実際のトリュフォーは、女性の手を握ったり腰に手を回すこともできないようなオクテではなかったろうが、自分を投影したキャラクターであることは確かだ。シャルリがギャングに対して語る女性観は、トリュフォー自身の女性観なのかもしれない。
女
運命に翻弄されるシャルリに近付く女性たちは、さらに悲惨な運命にさらされる。妻のテレザはシャルリの成功のために身体を売り、それを彼に告白して投身自殺。シャルリに好意をもったレナは、流れ弾に当たって殺されてしまう。
ラスト、酒場では新しいウェイトレスが紹介されるが、観客はそこに不吉な影を嗅ぎとり、新たな悲劇を予感させてしまう。そしてそんな自覚の一切無いシャルリは、今日も酒場でピアノを弾き続けるのだ…。
- 原題/Tirez sur le pianiste
- 製作年/1959年
- 製作国/フランス
- 上映時間/88分
- ジャンル/クライム、ドラマ、サスペンス
- 監督/フランソワ・トリュフォー
- 脚本/フランソワ・トリュフォー、マルセル・ムーシー
- 製作/ピエール・ブロンベルジェ
- 原作/デヴィッド・グーディス
- 撮影/ラウール・クタール
- 音楽/ジャン・コンスタンタン
- 編集/クラウディヌ・ブーシェ、セシール・デクギス
- シャルル・アズナヴール
- マリー・デュボワ
- ミシェル・メルシェ
- アルベール・レミ
- ダニエル・ブーランジェ
- クロード・エイマン
- リチャード・カナヤン
- ピアニストを撃て(1959年/フランス)
- 大人は判ってくれない(1959年/フランス)
- 夜霧の恋人たち(1968年/フランス)
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