禍々しさ増量!石坂金田一シリーズ第二弾
獄門島だの八つ墓村だの悪霊島だの、横溝正史はよくもまあこんな鬼畜系の地名をひねくりだすものだと感心してしまうが、『悪魔の手毬唄』(1977年)の舞台である鬼首村(おにこべむら)も、ゴスっぷりでは全く引けをとらない。
手毬唄になぞらえて連続殺人事件がおきるわ、足を踏み入れたら二度と這い上がれない底なし沼があるわ、常田富士男は年がら年中酔っぱらっているわ、白石加代子は何かに取り憑かれたかのように幸が薄すぎだわ。
こんな村に押し込められたら10分で気が狂うこと必至。“ミスターいい人”こと岡本信人の存在が唯一の清涼剤か。
禍々しい横溝正史的世界をモダンな感性で切り取る市川崑のビジュアル・センスも、前作『犬神家の一族』(1976年)に続くシリーズ第二弾とあって、いよいよ成熟の度合いを深めている。
鉛色の分厚い雲が空を覆う冬枯れの山を、黒マントをまとった金田一耕助がゆっくりと歩いて行くロングショットなんぞ、ゾクゾクするほどクール。大野雄二に代わって、アルファ・レコードを設立してYMOを成功へ導いたことでも有名な村井邦彦が今作の音楽を担当しているが、より日本的情緒に訴えたスコアが心に染みる。
石坂金田一は、相も変わらずどこか傍観者のような態度でフワフワしており、事件に積極的に関与しようとする意思は一切感じられず。代わりに若山富三郎演じる磯川警部が獅子奮迅の活躍ぶりをみせるのだが、この富三郎の芝居が実にナイスなり。
やり手警部らしいドスの利いた凄みをチラ見せしつつ、岸惠子に恋慕する純朴な中年男の悲哀も同時に体現していて、その想いの報われなさに思わず涙してしまう。
ラストで、列車に乗り込んだ金田一が見送りに来てくれた磯川警部に「あなたはリカさんを愛していたのですね?」と問いかけるものの、列車の音にかき消されてその答えは聞けずじまいで終幕となるんだが、最後の最後で映し出されれる駅名が総社。つまり「そうじゃ」!
果たしてこれは偶然なのか計算なのか。市川崑曰く「全くの偶然」ということだが、思わずダブルミーニングであることを勘ぐりたくなるほど、このラストシーンは美しく、そして哀しい。
- 製作年/1977年
- 製作国/日本
- 上映時間/143分
- 監督/市川崑
- 製作/市川崑、田中収
- 原作/横溝正史
- 脚本/久里子亭
- 撮影/長谷川清
- 照明/佐藤幸次郎
- 音楽/村井邦彦
- 録音/田中伸行
- 美術/村木忍
- 助監督/岡田文亮
- スクリプター/橋山直己
- 製作補/村上久之
- 編集/小川信夫、長田千鶴子
- 石坂浩二
- 岸惠子
- 若山富三郎
- 仁科明子
- 北公次
- 草笛光子
- 中村伸郎
- 加藤武
- 大滝秀治
- 渡辺美佐子
- 岡本信人
- 白石加代子
- 常田富士男
- 三木のり平
- 辰巳柳太郎
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