スパイダーマン最大の魅力である“飛翔感”に欠ける、リブート作
考えてみると、ライミ版『スパイダーマン』シリーズは、ボンクラ高校生の抑えきれないリビドーを、アメコミ的フォーマットを借りて描くという、“性”春映画であった。
原作では糸状繊維をウェブシューターから発射するという設定だったのに、掌から発射できるようにわざわざ作り替えたのは、精子の放出=オナニーという明白なメタファーにせんがため!
巨額の製作費を投じて、非モテ系男子の自慰行為を描くという、極めてラディカルなシリーズだったんである。
“性”春映画トリロジー『スパイダーマン』は世界中からの喝采を浴び、メガヒットを記録。ソニー・ピクチャーズ側は引き続きサム・ライミに第四作の監督も打診するも、真っ白な灰に燃え尽きた彼はこれを拒否。
だがソニーは、ドル箱シリーズをこのまま終わらせる気は毛頭なく、前シリーズから5年という超ショートスパンで、新監督と新キャストによるリブート企画が始動した。
ジェームズ・キャメロン、デヴィッド・フィンチャー、ウェス・アンダーソンというビッグ・ネームがウワサになったものの、結局『アメイジング・スパイダーマン』(2012年)の監督に抜擢されたのは、『500日のサマー』(2009年)でゼロ年代青春映画のクラシックを打ち立てたマーク・ウェブ。
Webb(クモの巣)を操るヒーローを描くにあたって、Webbという名の男ほどふさわしい人材はない、という訳か?
そこかしこにオタク臭が滲み出るサム・ライミとは違い、マーク・ウェブのタッチはお洒落かつスマート。おまけに、青春時代特有の痛切さと喪失感をもリリカルに素描できる文学系。
しかしながら、ワイドスクリーンいっぱいに繰り広げられるアクションになると、途端にスキルの範疇外となってしまう。運動感あふれる空間処理にいささか難があるため、スパイダーマン最大の魅力である“飛翔感”に『アメイジング・スパイダーマン』は欠けているのだ。
前シリーズで、ピーター・パーカーを演じたトビー・マグワイアのボンクラぶりに喝采を送っていた小生としては、今回ピーターを演じるアンドリュー・ガーフィールドにも不満アリ。
何せ、スケボーを軽快に乗り回す頭脳明晰&グッド・ルッキンなリア充男子という設定。ブロンド美女のグウェイン(エマ・ストーン)と強引にキスして、ハートもがっちりキャッチしてしまう。思いっきり勝ち組やないか!!感情移入できないこと甚だしい。
善くも悪くも、『アメイジング・スパイダーマン』は優等生的な映画だ。スパイダーマンを新しく語り直す必然性が感じられず、細かなディティールのアップデートが効果的に作動していない。
続編を作るにあたっては、アプローチの方向性を再考する必要があるんではないか?
- 原題/The Amazing Spider-Man
- 製作年/2012年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/136分
- 監督/マーク・ウェブ
- 製作/ローラ・ジスキン、アヴィ・アラッド、マット・トルマック
- 製作総指揮/スタン・リー、ケヴィン・フェイグ、マイケル・グリロ
- 原作/スタン・リー、スティーヴ・ディッコ
- 原案/ジェームズ・ヴァンダービルト
- 脚本/ジェームズ・ヴァンダービルト、アルヴィン・サージェント
- 撮影/ジョン・シュワルツマン
- 音楽/ジェームズ・ホーナー
- アンドリュー・ガーフィールド
- エマ・ストーン
- リス・エヴァンス
- デニス・リアリー
- キャンベル・スコット
- イルファン・カーン
- マーティン・シーン
- サリー・フィールド
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