いきあたりばったり的な、正統派フレンチ・モラトリアム映画
『大人は判ってくれない』(1959年)から『逃げ去る恋』(1979年)まで計5本製作された、いわゆるアントワーヌ・ドワネル・シリーズの3作目がこの『夜霧の恋人たち』(1968年)。
とにかく、ジャン・ピエール・レオ演じるアントワーヌのお調子者ぶりが楽しい。ヘマはするがどうにも憎めないダメ男、しかし妙に女にはモテる…。たぶん少年期と青年期の狭間にいるような未成熟さに、母性本能がくすぐられるんだろうな。
不真面目・不謹慎がたたって軍からは除隊されてしまうし、せっかく雇ってもらったホテルの夜勤の仕事もトラブルでクビ。ひょんなことから探偵事務所で働くことになっても、依頼人の奥さんと寝てしまう始末。
恋も仕事もあっちへフラフラ、こっちへフラフラ。『夜霧の恋人たち』は実にいきあたりばったり的な、正統派フレンチ・モラトリアム映画だ。
クリスティーヌのほとんどコントとしか思えないお粗末な尾行ぶりや、ゴダールを思わせる原色系の色彩センス、コンチネンタル・スタイルのファッションも楽しいが、やはりトリュフォー作品の最大の魅力は女優陣。
絵に描いたような良家のお嬢さんクリスチーヌ、マダムな色気でアントワーヌを悩殺しまくるファビエンヌ。うーん、どっちもいいオンナだねえ。しかもご両人とも、イケメンGETの手管に長けていらっしゃる。
ファビエンヌの直球ストレートな積極モーションもすごいが、クリスチーヌも自分でテレビを壊しておいて、テレビ修理屋のアントワーヌを呼びつける(なおかつヨリを戻してしまう)という高等テクニックを披露。
いやー脱帽です。アントワーヌくん、女性を我がものにしているかのように見えて、実は女性の掌の上で遊ばれているんである。
アントワーヌが探偵事務所で働き出してからは、物語が俄然サスペンスタッチに移行するものと思いきや、最後までドタバタ恋愛劇に徹するあたりはさすがトリュフォー。
クリスティーヌを尾けまわしていた怪しい男(観客はこの人物が探偵であるとミスリードされる)がラストで突然愛を告白し、「あの人、頭がオカシイのね」と一蹴されてFINを迎えてしまうあたり、恋愛映画として徹底している。
伏線をあっさり放棄してしまう潔さに(ある意味では機能しているんだが)、トリュフォー的なシネフィル観を垣間見た思い。
- 原題/Baisers Voles
- 製作年/1968年
- 製作国/フランス
- 上映時間/101分
- 監督/フランソワ・トリュフォー
- 脚本/フランソワ・トリュフォー、クロード・ド・ジヴレー、ベルナール・ルボン
- 撮影/デニス・クレルヴァル
- 音楽/アントワーヌ・デュアメル
- 録音/ルネ・ルヴェール
- 美術/クロード・ピニョ
- 編集/アニェス・ギユモ
- ジャン・ピエール・レオ
- デルフィーヌ・セイリグ
- ミシェル・ロンダール
- クロード・ジャド
- ダニエル・チェカルディ
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