アニミズム的な神秘主義が織り込まれた、原田郁子の“ダークサイド”アルバム
深い深い森の奥に古の語り部が棲んでいて、夜の深い闇に一筋の光が差し込む頃、彼女は世界に向かって静かに歌いだす。紡がれるメロディーに呼応するがごとく、打楽器がポリリズミックなリズムを打ち鳴らし、弦楽器がフリーキーなオーケストレーションを展開する…。
『ケモノと魔法』(2008年)は、山梨県小淵沢の元保育園を改装したギャラリーで録音された、原田郁子の2ndアルバム。アニミズム的な神秘主義が織り込まれた、実にファンタスティックな作品だ。
チャイルディッシュで、カラフルな色彩を帯びたデビューアルバム『ピアノ』も、気持ちのいい休日の午後に散歩に出かけるような、等身大のちっちゃなシアワセがいっぱい詰まった名盤だった。だが『ケモノと魔法」には、それだけにはとどまらない、呪術的な吸引力がある。
『ピアノ』(2004年)が、暖かな日だまりを感じさせる“サニーサイド”なアルバムとするなら、さしずめ『ケモノと魔法」は、しんしんと冷える夜の帳を音像化したかのような、“ダークサイド”なアルバム。
何てったって、1曲目のタイトルが『青い闇をまっさかさまにおちてゆく流れ星を知っている』ですよ、アナタ。彼女曰く
「深く分け入った森、入ったら出てこられないような恐ろしい場所。それを生きた音で表現したかった」
ということらしいが、彼女の無垢な歌声はもはや可愛らしい童話的世界を飛び越え、「精霊たちとの交信」といったスピリチュアル・レベルに辿り着いてしまっている。
インプロヴァイゼーション度高めの奔放なサウンドは、「マジで精霊によって導かれたんではないか?」と、思わずいぶかってしまうほどだ。
美しいフルートの音色がスピリチュアルな世界観を構築する『こだま』、フォーキーなエレクトロニカ『あいのこども』、狂想的なピアノ・インストゥルメンタル『感嘆符と溜め息』、喧噪と狂騒に満ちた楽隊マーチ『クイカイマニマニ』…。
オオヤユウスケ、永積タカシ、高野寛、原マスミ、友部正人といった個性の強い作家陣によって、原田郁子は歌ひ手としてさらなる覚醒を果たした。個人的にも『ケモノと魔法』は、2008年度ナンバーワンの愛聴盤である。
- アーティスト/原田郁子
- 発売年/2008年
- レーベル/コロムビアミュージックエンタテインメント
- 青い闇をまっさかさまにおちてゆく流れ星を知っている
- こだま
- ピアノ
- サヨナラ オハヨウ
- あいのこども
- 感嘆符と溜め息 (instrumental)
- クイカイマニマニ
- やわらかくて きもちいい風 (弾き語り)
- ケモノと魔法
- ユニコーン
- もうすぐ夜があける
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