ワイト島からやってきた、予測不能な才能
僕がウェット・レッグの存在を知ったのは、たしかYouTubeで見た2023年のコーチェラだった。
ステージ上の2人ーーリアン・ティーズデールとヘスター・チャンバースは、地元の文化祭で出し物をやっているのかと思うほどリラックスした雰囲気で、のびのび演奏。ヴィクトリア朝の服装に身を包み、どこかフォーク・ホラー映画の登場人物のような雰囲気を醸し出していた。
雷を受けたような衝撃を受け、慌ててMVをチェックしてみたら、本当に全体がアリ・アスターの『ミッドサマー』(2019年)を思わせるフォーク・ホラー系ビジュアルで、さらなる衝撃が走る。その日を境にして、僕は完全にウェット・レッグの虜となった。
イギリス・ワイト島からやってきた彼女たちの音楽を一言で説明するのは、とても難しい。ものすごくダークなフォンテインズD.C.というか、不気味さが増したオールウェイズというか。ざっくり言えばポスト・パンク/インディー・ロックの系譜に位置するが、それだけでは語り尽くせないミステリアスな魅力があるのだ。
ウェット・レッグ(Wet Leg)というバンド名は、地元ワイト島のスラングに由来している。直訳すれば「濡れた足(湿った脚)」。この表現は、日常の中でのちょっとした不器用さや滑稽さ、予想外のハプニングを象徴していて、そのまま二人の音楽性、パーソナリティに直結している。
リアンとヘスターは、大げさな自己演出や虚飾を好まない。ナチュラルな感覚や毒っ気のあるユーモアをそのまま放出する。どこか不器用だけど親しみやすく、かつ皮肉めいたニュアンスを持つこのバンド名は、ぶっきらぼうで中毒性の高いサウンドと、ユーモアと不穏さが共存する歌詞世界に完全リンクしている。
おそらく、海に囲まれたワイト島の気候や地理的特性、自然との距離感も「濡れた足」のイメージに反映されているのだろう。二人のルーツと、自由で遊び心に満ちた音楽スタイルが完全に一致している。
二人は地元の友人で、音楽学校での経験を通じて互いの才能を認め合い、バンドを結成。デビュー・アルバム『Wet Leg』(2022年)は、リアンのアンニュイなリリック、ヘスターのクールなリズム感覚が融合した、独特すぎるサウンドが魅力的な一枚となっている。
軽快なギターリフ、鋭利なベースライン、跳ねるようなドラムパターン。リアンのドライで皮肉を帯びた語り口に、時折ヘスターのコーラスが加わることで、緊張感と遊び心が交錯する。楽曲構造はシンプルながら、サビへのビルドアップや意図的な間の取り方が聴き手の耳に強烈に残る。
ギターは単音リフやシンプルなパワーコードを主体にしつつ、微妙なメジャー/マイナーの切り替えで不穏さを演出。ドラムは跳ねる16分音符やスネアのアクセント位置でリズムに揺れを生み、聴覚的に遊び心を加えている。
軽妙なギターとドラムのグルーヴに乗せて、big D(おそらく大きな男性器のこと)というワードを連発するM-2「Chaise Longue」。クライマックスはシューゲイザーのような轟音の煌めきがあるM-3「Angelica」。ポスト・パンクの尖りまくったエネルギーが際立つM-5「Wet Dream」。浮遊感あるシンセと絶妙なドラムアクセントが空間の広がりを演出するM-12「Too Late Now」。どれも捨て曲なしのグッド・チューン揃いだ。
アルバム全体の構造も巧妙。前半は軽妙でユーモラスなトーンに彩られているが、後半に向かうにつれダークなエネルギーが増幅されていく。この起承転結により、聴き手はアルバムを通して感情の振幅を体感し、単なるポップ・アルバムではなく、一つの作品世界を旅する体験を味わえる。
脱力感と中毒性の高いリズム感覚、ユーモアと不穏さの共存。『Wet Leg』は、独自の魅力に満ちたアルバムであり、音楽的幅の広さ、文化的背景の反映、曲順の構成まで含めて、ポスト・パンクの新しい可能性を提示している。
- アーティスト/ウェット・レッグ
- 発売年/2022年
- レーベル/Domino
- Chaise Longue
- Wet Dream
- Angelica
- Being in Love
- Who Knows Who Cares
- Too Late Now
- Oh No
- Piece of Shit
- Julien
- Ur Mum
- At the TV
- Security
- Supermarket
- Angelica (Acoustic)
