ボブ・ジラルディが仕掛けた、トリッキーな“グランド・ホテル形式”ドラマ
『ディナーラッシュ』に(2001年)を乱暴に要約してしまえば、昔気質なイタリアン・レストランのオーナーが、天才シェフの息子にお店を移譲する話。
伝統的なイタリア料理を愛していたオーナー VS 現代風なヌーヴェル・キュイジーヌで店を大繁盛させた息子、という分かりやすい対立軸がドラマの骨格となる。
限定された時間・空間で不特定多数の人生ドラマが並走して描かれる典型的な“グランド・ホテル形式”の群集劇なのだが、不思議なくらいに人間模様が交錯しないので、物語の着地点がどこへ向かうのかさっぱり分からず、ミョーに不安な気持ちになる。
っていうか普通“グランド・ホテル形式”のドラマって、小さな川がやがて大河にいきつくがごとく、細かなエピソードが全てを包括するメインストーリーに収斂されるものですよね?
しかし『ディナーラッシュ』においては伏線らしい伏線は存在せず(ひとつだけ強力な伏線があるけど)、どのエピソードもレストラン内の喧騒を描き出すための手段にしか見えず。
だから観客も実際にレストランの中に放り込まれたような錯覚に陥ってしまい、映画の全体像がつかめきれないのである。
じゃあこの映画が駄作かといえば決してそんなことはなく、むしろ「実際にレストランの中に放り込まれたような感覚」というのは、実際に映画の舞台となったイタリアン・レストランのオーナーでもあるボブ・ジラルディ監督の緻密な戦略なのではないか?といぶかってしまうほどだ。
たぶんこの映画に対する最も有効な鑑賞法とは、「期待しないこと」なんだと思う。「観る前から映画のジャンルを規定しない」という条件付きであれば、充分ゴキゲンな99分間を楽しめると請け合いだ。
この映画についてググってみると、「新感覚のサスペンス映画」だの「一風変わった親子ドラマ」だの「グルメ&ギャング映画」だの、十人十色な感想が乱立している訳で、受け手側もフラットな態度で映画に臨んだほうがいいと思われます。
オーナーを演じるのは、“360度どこを見回してもイタリア人”というくらいにこってりイタリー系のダニー・アイエロ。『月の輝く夜に』(1987年)ではちょっとマヌケなシェールの婚約者を演じていたかと思えば、『レオン』(1994年)ではジャン・レノの頼れる良き理解者を演じていたベテラン俳優である。
僕がニューヨークに住んでいた頃、リトル・イタリーに近い有名なチーズケーキ屋さんに彼のブロマイド写真がでかでかと飾ってあったことをよく覚えている。映画の中のみならず実生活でも、彼はリトル・イタリーの人々に愛されている存在らしい。実にめでたい。
- 原題/Dinner Rush
- 製作年/2001年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/99分
- 監督/ボブ・ジラルディ
- 脚本/リック・ショーネシー、ブライアン・カラタ
- 製作/ルイス・ディジアイモ、パッティ・グリーニー
- 製作総指揮/フィル・シュアルツ、ロバート・チーレン、ロバート・スチュアー、マイケル・ボーモール
- 撮影/ティム・アイヴス
- 美術/アンドリュー・バーナード
- 音楽/アレクサンダー・ラサレンコ
- 編集/アリソン・C・ジョンソン
- ダニー・アイエロ
- エドアルド・バレリーニ
- ヴィヴィアン・ウー
- マイク・マッグローン
- カーク・アセヴェド
- サンドラ・バーンハード
- ジョン・コルベット
- ジェイミー・ハリス
- サマー・フェニックス
- ポリー・ドレイパー
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