キムタクはもともと『宇宙戦艦ヤマト』の大ファンで、『SMAP×SMAP』のパロディ企画で古代進を嬉々として演じていた。
じゃ折角だから映画化しちゃいましょう!ということで、『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)の山崎貴を監督に迎え、約20億円もの製作費を注ぎ込んだのがこの『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(2010年)である。
この超大作を、いかに138分という上映時間にまとめるかが最大の難問だった訳だが、脚本を担当した佐藤嗣麻子(『K-20 怪人二十面相・伝』や『アンフェア the answer』では脚本・監督を担当)は、周到なプランを組み立てた。
まずは、可憐・病弱な典型的大和撫子キャラのヒロイン森雪を、そのままの役柄では犬も食わないウンコ話になると踏んで、新鋭機コスモタイガーを操る、「ブラックタイガー隊のエースパイロット」にリ・ボーン。
黒木メイサに男勝りな森雪を演じさせ、アクションもラブ・アフェアーもミックスさせてしまうことで、チープな恋愛劇に尺をとられることなく、物語の効率化をはかったのだ。
そして、宿敵デスラー総統をクリスタル状鉱石質で出来た意思集合体という設定にしてしまい、原作のキャラ設定を完全崩壊。
デスラーとのライバル関係などチマチマ描く余裕もない訳で、「何だかよく分からないけど、地球を破壊しようとしている悪いモノ」という超曖昧な存在に仕立て上げてしまった。出番もわずか数分感というヒドい扱いである(よって、伊武雅刀のダンディ・ヴォイスはちょっとしか拝めない結果に)。
さらには、序盤はアニメ映画版『宇宙戦艦ヤマト』(1977年)を忠実になぞりつつも、惑星ガミラスに到着してからは『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(1978年)をなぞったエピソードを盛りまくり。
真田志郎と斉藤始が、敵の銃撃を雨あられと受けながら爆破スイッチを押して自爆するシーンとか、古代守が単身ヤマトを操縦して敵戦艦を沈めるシーンなどは、その代表的なエピソードだ。
最終的には『宇宙戦艦ヤマト 完結編』(1983年)のような大団円を迎えるという、美味しいところをつまみまくる節操のない戦略によって、シナリオを強固なものにせんと企んでいる。
…しかーし!!はっきり申し上げて、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』は珍品としか言いようのないZ級映画である。
そもそも戦艦大和を宇宙戦艦に仕立て上げてしまうこと自体、冷静に考えると破天荒設定なんであって、松本零士的な「古き良き未来」を巨費をかけた最新VFXで現代的にコーディングしようと、全編を貫くチープさはぬぐいようがない。
冒頭の地球描写なんぞ、ワンルームの地下シェルターだけで話が進んじゃうので(ちなみに全く理由が分からないワンシーン・ワンカットである)、世界的規模なクライシスが迫り来る皮膚感覚が全く伝わってこないんである。
じゃあ人間ドラマが秀逸かというと全くもってそんなことはなく、人物造型はあまりにも画一的。キムタクが古代進を熱演、というよりもキムタクがそのまま宇宙戦艦ヤマトに乗艦してるんじゃね?っていうくらいに、キムタクismがMAX!!なんであって、観ているこっちは腹当たりを起こしそうになる。
あと、軍医の佐渡先生役を何故か高島礼子が演じてるんだが、コレがマジでヤバい。ご丁寧に猫抱いて一升瓶抱えているマンガ的設定をなぞっているもんだから、オリジナルを知らない人からすると、メンヘラおばさんにしか見えないことだろう。
結局のところ、この『SPACE BATTLESHIP ヤマト』は『SMAP×SMAP』のパロディ企画のスケール拡大版でしかない。
キムタクが真顔で「波動砲、はっしゃー!!」と叫ぶたびに、小生は「西暦2199年という設定で、波動砲はねーだろ!!」と原作ファンからお叱りを受けそうなツッコミを入れてしまったんである。
考えてみれば、「愛する者を守る為に、命を投げ打ってまで地球を守る」という展開は、完全に『アルマゲドン』。
主題歌をエアロスミスのスティーヴン・タイラーが務めているのも分かりやすい類似だが、僕の大嫌いなこの映画の、安っぽいヒューマンドラマ性を『SPACE BATTLESHIP ヤマト』にもビシビシ感じてしまうことが、最大のウィークポイントなんではないか?と思ってしまう次第なり。
P.S.
映画公開前の11月7日、『宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサー西崎義展が船から転落して事故死した。その船の名前は、「YAMATO」であったという。R.I.P.
- 製作年/2010年
- 製作国/日本
- 上映時間/138分
- 監督/山崎貴
- 原作/西崎義展
- 脚本/佐藤嗣麻子
- 音楽/佐藤直紀
- 製作統括/信国一朗
- 企画/中沢敏明、濱名一哉
- エグゼクティブプロデューサー/飯島三智、阿部秀司、市川南
- プロデューサー/東信弘、山田康裕、石丸彰彦、安藤親広
- 撮影/柴崎幸三
- 照明/吉角荘介
- 録音/鶴巻仁
- 美術/上條安里
- 編集/宮島竜治
- 木村拓哉
- 黒木メイサ
- 柳葉敏郎
- 緒形直人
- 池内博之
- マイコ
- 堤真一
- 高島礼子
- 橋爪功
- 西田敏行
- 山崎努
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