『プラトーン』(1986年)、『7月4日に生まれて』(1989年)で2度もアカデミー監督賞を受賞している大作家にも関わらず、批評家や映画ファンに語られる機会は極端に少ない。
本屋の映画コーナーにいけば、ゴダールやヒッチコックの関連書籍が山ほどあるというのに、オリバー・ストーン関連の書籍なんぞお目にかかったこと無し。
多分にジャーナリスティックな面が顕著な彼のフィルモグラフィーは、社会的・政治的な側面を抜きにしては語れないぶん、純粋な映画批評の対象に成り得ないのだろう。
“怒れる作家”オリバー・ストーンが’91年に上梓した『JFK』(1991年)は、ケネディ暗殺事件の真相に迫る、迫真のドキュメンタリータッチ・ドラマである。
真犯人はオズワルドではなく、時の政府による謀略であったという大胆な結論は、独善的すぎるきらいもあるが、もう一度あの惨劇をはっきりした形で再検証すべきだというメッセージは、当時女性のおっぱいのことしか考えていなかった僕にも強く響いた。
初見の興奮が忘れられず、後日再び『JFK』を観に行ったものだ。同じ映画を観に映画館へ二度も足を運んだのは、この作品が最初である。
もともとオリバー・ストーンは生理的に苦手な監督の一人だった。アクが強くて一方的。オマケに説教臭い。しかし、『JFK』ではそんな瑕疵すらもプラスに転化させる程の超絶エネルギーに満ち満ちている。
当時の映像を巧みに折り込んだ超高速カット割り、ディスカッション・ドラマとしての面白さを十二分に引き出した法廷シーン、そして骨太なドラマを盛り上げるジョン・ウィリアムズの勇壮な音楽。いやー、ゾクゾクする程の映画的興奮を覚えたものだ。
そして、主役を演じるケビン・コスナー。ジェームズ・スチュワートの系譜を継ぐ、アメリカの良心とも言うべき正統派二枚目俳優。
アクの強いオリバー・ストーン風味は、彼の起用によってほぼ中和されている。オリバー・ストーンが必要としたのは、おそらく「スポークスマンとして信頼に足る実直なイメージ」だ。
映画のラスト近く、ケビン・コスナーが「自らの手で信頼できるアメリカを回復しよう」と真摯に訴えるシーンは、観る者の胸を締め付ける素晴らしいシーンだと思う。
これと比較すると、『インデペンデンス・デイ』(1996年)で大統領が叫ぶ戦意高揚的なスピーチなんて、サイテーだと思っちゃいます。
- 原題/JFK
- 製作年/1991年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/189分
- 監督/オリバー・ストーン
- 製作/A・キットマン・ホー
- 製作総指揮/アーノン・ミルチャン
- 原作/ジム・ギャリソン
- 脚本/オリバー・ストーン、ザカリー・スクラー
- 撮影/ロバート・リチャードソン
- 音楽/ジョン・ウィリアムス
- ケビン・コスナー
- シシー・スペイセク
- トミー・リー・ジョーンズ
- ジョー・ペシ
- ゲイリー・オールドマン
- ジャック・レモン
- ウォルター・マッソー
- ドナルド・サザーランド
- ケビン・ベーコン
- エド・アズナー
- ブライアン・ドイル=マーレイ
- サリー・カークランド
- ジェイ・O・サンダース
- マイケル・ルーカー
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