デヴィッド・フィンチャーが世紀末に仕掛けた、新感覚のパンク・ムービー
僕はデヴィッド・フィンチャーの人柄も知らないし、彼のインタビューも読んだ訳ではない、しかし、何故か「コイツは自信満々でコーマンチキな、友達にはしたくない奴だ」と確信してるんである。間違いない、絶対そーだ。そうでなければ、こんなにハジけた映画を撮れる訳がない。
デヴィッド・フィンチャーと僕との智恵比べは、今のところ僕の一勝一引き分けである。『セブン』(1995年)ではラストのオチがかなり早い時点で分かっていたし、『ゲーム』(1997年)の結末は意外ではあったものの予想の範囲内ではった。
しかし、『ファイトクラブ』(1999年)は完敗である。ストーリーが向かうべき着地点が全く読めず、デヴィッド・フィンチャーが仕掛けたギミックに、ただただ呆然と見守るばかり。
男たちが己の拳で闘い合う、狩猟民族としての本能を描いた作品なのかと思っていたら大間違いである。ましてや、TBSの『ガチンコ!ファイト・クラブ』のような話でもない(当たり前だ)。
ミステリーなのか人間ドラマなのか、ジャンルすら規定できない。『トレインスポッティング』(1997年)などのUKドラッグムービーとも違う手触り。これはデヴィッド・フィンチャーしか作り得ない、新感覚のパンク・ムービーだ。
だから、いい加減ビデオショップはこの映画を「アクション」コーナーに置くのは止めたほうがいい。明らかに間違ってます。
役者もクセ者揃い。エドワード・ノートン、ブラッド・ピット、ヘレナ・ボナム・カーターの主演三人とも素晴らしいが、特に不眠症に悩む青年を演じるエドワード・ノートンがいい。若手演技派と注目を浴びてはいたが、メジャー系ではなかなかお目にかかれない役者だった。
アカデミ賞にノミネートされた『アメリカン・ヒストリーX』(1998年)ではやたらマッチョなボディを披露していたが、この映画では何とも虚弱体質っぽいボディにビルド・ダウン。役柄で体格をここまで変えてしまうとは、コイツはまさに新世代のデ・ニーロだ。
さらには、傍役でミート・ローフが出演しているというマニアックなキャスティングも嬉しい(ラストクレジットまで僕は気付かなかったぞ!)。
『ファイトクラブ』は、デヴィッド・ファンチャーのフィルモグラフィーの中でも、最も挑戦的な一作である。自信たっぷりに、口元に笑みを浮かべながら「どーだい、俺の新作は?なかなかのもんだろう」と勝利を確信するデヴィッド・フィンチャーの姿が目に浮かぶようだ。
彼は本質的な意味で「映画」を撮ろうと思っていない。彼は観客を自らの手品でケムにまくマジシャンなのだ。絶対コイツは性格の悪いイヤな奴だとは思うんだが…、残念ながら才能に満ちあふれた、愛すべきくそったれであることに間違いはないようだ。
- 原題/Fight Club
- 製作年/1999年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/139分
- 監督/デヴィッド・フィンチャー
- 製作総指揮 アーノン・ミルチャン
- 製作/アート・リンソン、シーアン・チャフィン、ロス・グレイソン・ベル
- 原作/チャック・パラニック
- 脚本/ジム・ウールス
- 撮影/ジェフ・クローネンウェス
- 音楽/ダスト・ブラザーズ
- 美術/アレックス・マクドウェル
- ブラッド・ピット
- エドワード・ノートン
- ヘレナ・ボナム・カーター
- ミート・ローフ
- ザック・レニエ
- ジャレッド・レト
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