ダイヤルMを廻せ!/アルフレッド・ヒッチコック

ダイヤルMを廻せ!  3D&2D [Blu-ray]

“最高の美の化身”グレース・ケリーが、ヒッチコック映画に初めて舞い降りた3Dサスペンス

フレデリック・ノットの同名戯曲を映画化した『ダイヤルMを廻せ!』(1954年)は、オープニングから映画話術を知り尽くしたヒッチコックの見事な語り口が堪能できる。

  1. グレース・ケリーが夫のレイ・ミランドとキスをしている
  2. グレース・ケリー読む新聞の見出しに、「アメリカ人作家マーク・ホリデイが1年ぶりにロンドンに来る」という見出しが踊る
  3. グレース・ケリーが、そのマーク・ホリデイ役のロバート・カミングスと熱烈なキスをしている

という3つのシーンを単純に繋ぐことによって、ヒッチコックはわずか1分少々でグレース・ケリーが不倫の恋に溺れていることを提示してしまう。

これぞ手際の良い職人芸!基本的な物語構造はオーソドックスな舞台劇なのだが、イントロダクションをセリフなしで構築してしまうあたりが、ヒッチコックのヒッチコックたる所以なり。

だが、とにもかくにもこの『ダイヤルMを廻せ!』は、“最高の美の化身”であるグレース・ケリーがヒッチコック映画に初登場した映画として、認知すべき作品なんである。

不倫の恋に溺れる人妻という設定は、どう考えても観客から共感を得られない役柄なんだが、グレース・ケリーはただひたすら美しいということで、美しいということ以外なにも取り柄がないってくらいに美しいというただ一点のみで、このアンチ・モラルな女性に我々を強制同情させてしまう。はっきりいって、これは物凄いことだと思う。

『グレース・ケリーの言葉 その内なる美しさ』(岡部昭子)

グレース・ケリーの芝居からは、その内面が何一つ滲み出てこない。演技云々ではなく、その容姿があまりに整いすぎて完璧すぎるために、我々観客は彼女の心の奥を探ることが困難なのである。

涙を流しているから悲しんでいるだろうとか、微笑んでいるからゴキゲンなんだろうとか、小学生でも分かる感情レベルで伺い知るのみなのだ。

グレース・ケリーは美しさゆえにフラットな存在なのであり、フラットな存在ゆえにどんな役をやらせてもその役柄に染まりきらず、ただ“グレース・ケリー”であることを露出する。

例えばイングリッド・バーグマンが『ダイヤルMを廻せ!』に出演したならば、彼女のエモーショナルな演技がアダとなり、生々しいアンチ・モラリティーが浮き彫りにされて、通俗的な娯楽作品には収まりきらない映画になっただろう。

純粋なるサスペンス映画を指向したヒッチコックにとって、グレース・ケリーこそが最高のファム・ファタールだったんである。

ちなみにこの作品、アメリカでは3D立体映画として劇場公開された。当時ハリウッドはテレビの急速な普及によってかつてのパワーを失っており、シネマスコープに代表される画面の大型化や、3D立体映画などの新手を打って、観客をスクリーンに呼び戻そうと腐心していたんである。

グレース・ケリーが犯人にハサミを突き立てるシーンなど、ところどころに立体効果を狙ったのであろうカットは散見できるのだが、特別派手なアクションもなく、役者の台詞によってドラマが進行する『ダイヤルMを廻せ!』をなぜ3D立体映画に選んだのかは、個人的には非常に謎です。

DATA
  • 原題/Dial M for Murder
  • 製作年/1954年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/105分
STAFF
  • 監督/アルフレッド・ヒッチコック
  • 脚本/フレデリック・ノット
  • 原作/フレデリック・ノット
  • 撮影/ロバート・バークス
  • 音楽/ディミトリ・ティオムキン
  • 美術/エドワード・キャレア
  • 録音/オリヴァー・S・ギャレットソン
  • 編集/ルーディ・ファー
  • 衣裳/モス・メイブリー
CAST
  • レイ・ミランド
  • グレイス・ケリー
  • ロバート・カミングス
  • ジョン・ウィリアムス
  • アンソニー・ドーソン
  • パトリック・アレン
  • レオ・ブリット
  • ジョージ・リー

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