荒野の用心棒/セルジオ・レオーネ

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芥川賞受賞作家にして、川上未映子ハズバンドである阿部和重は、映画評論集『映画覚書Vol.1』において、生死の境に絶えず自らを置くクリント・イーストウッドの肉体を、“幽霊化”という言葉で表すと共に、「イーストウッドはいつも墓場から世界を見つめている」と指摘している。

映画覚書 Vol.1

曰く、彼が演じるキャラクターは「初めから結束と勝利の彼岸に立っている」のであり、「生きているのか死んでいるのかすら判らない」のだ。

なるほど、『荒野の用心棒』におけるイーストウッドもまた、死界から遣わされた使者のごとき様相を呈している。

ポンチョに身を纏ったこの無口なガンマンが、ニューメキシコの小さな町サン・ミゲルに忽然と姿を現すやいなや、鐘つき男に

あんたは金が目当ての拳銃使いかね?また殺されるか。そしてまた葬式の鐘の準備だ

と声をかけられ、酒場の親父には、「あいつはあんたの棺桶を作っている。ここを出て行ったほうがいい。ここは墓場の町だ」と言われる始末。

はたまた、集団墓地で保安官の死体を掘り起こすという、罰当たりな作業に黙々と打ち込んでいると、

お前さんには墓場がお似合いだ

というセリフを親父に投げかけられる。善悪の彼岸ではなく、生死の彼岸に立っている彼にとっては、アンチモラルな振る舞いなどたいした問題ではないのだろう。

イーストウッドは“墓場の町”で悪魔のごとき知謀をはりめぐらし、町にはびこる疫病神を一掃せんと企む。

イーストウッド映画では十八番ともいえるリンチシーンで、己の肉体を限界MAXまで傷つけたあと、彼は街からの脱出のため、棺桶のなかにその身体を沈める(もちろんこれは原典である『用心棒』からの流用なのだが)。

それは、彼が半死半生であることの証明ではなく、ゴーストであることを誇示せんとする行為だ。『荒野の用心棒』とは、クリント・イーストウッドの“幽霊化”した肉体が躍動する映画なんである。

そもそも、かの淀川長治が名付け親と言われる「マカロニ・ウェスタン」というジャンル自体が、“幽霊化”したカテゴリ。アメリカで一度死んだはずの西部劇が、異国イタリアで風変わりな形で復活を果たした。

マカロニウエスタン 殺戮と銃撃のバラード: 永久保存版

そんなマカロニ・ウェスタンの代表作が、セルジオ・レオーネによるこの『荒野の用心棒』。黒澤明の許可をいっさいとらずに『用心棒』を換骨奪胎してしまった本作には、しかしながら原典にはない乾いた死の匂いが充満している。

全ては、イーストウッドの“幽霊化”した身体から発せられているんである。

DATA
  • 原題/Per un pugno di dollari
  • 製作年/1964年
  • 製作国/イタリア
  • 上映時間/96分
STAFF
  • 監督/セルジオ・レオーネ
  • 脚本/セルジオ・レオーネ、ドゥッチオ・テッサリ、ヴィクトル・A・カテナ、ハイメ・コマス
  • 撮影/ジャック・ダルマース
  • 美術/チャールズ・シモンズ
  • 音楽/エンニオ・モリコーネ
CAST
  • クリント・イーストウッド
  • ジャン・マリア・ヴォロンテ
  • マリアンネ・コッホ
  • ヨゼフ・エッガー
  • マルガリータ・ロサーノ
  • ジョン・ウェルズ
  • マリオ・ブレガ
  • ヴォルフガング・ルクシー

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