とろめくように美しい光と影が織りなす、最高にクールなクライム・サスペンス
まるで宝石箱を覗き込むがごとく、無限の光を放つ都市の夜景。ビルとビルの間をすり抜けるように、エレクトリックな『Nightcall』のサウンドが鳴り響く。
タイトルシーンだけで、「ヤバい!これジャスト好み!」と稲妻のように直感が働いた。 夜のLAを美しく撮るという才能ひとつだけでマイケル・マンを敬愛する小生としては、こんなツボすぎる映像を観させられたら即ノックアウト。
かくして僕は、デンマーク生まれの若き鬼才ニコラス・ウィンディング・レフンと、『ドライヴ』(2011年)で幸せな邂逅を果たした。
原作は、2005年に発表されたジェイムズ・サリスの同名小説。強盗が逃走する車輛のドライバー、いわゆる“逃がし屋”稼業に手を染める男の、裏切りと欲望が渦巻くクライム・ノベルである。
この小説を、『ディセント』(2005年)や『ドゥームズデイ』(2008年)で知られるオタク系監督ニール・マーシャルが、ヒュー・ジャックマン主演で映画化…のはずだった。結局、紆余曲折あってライアン・ゴスリングが主演となり、彼の熱烈オファーでメジャーシーンでは無名に近かったニコラス・ウィンディング・レフンが監督として招き入れられることに。
周囲は『ワイルド・スピード』系のカーアクション映画に仕上がると信じきっていたものの、ハードエッジすぎる映画監督×主演俳優によって完成した作品は、カーアクションが冒頭しか存在しない(しかも超地味)という、別の意味でハードエッジすぎる映画と相成った。
カーチェイス満載のアクション映画を期待していたミシガン州在住の女性が、想像と全く異なる内容だったため、配給会社を提訴するという事態まで発生する始末。
「無骨で不器用な男が、恋に落ちた女性のために一肌脱いで、抗争に巻き込まれていく」というストーリーは、ほとんど『木枯らし紋次郎』。お話自体は既視感ありまくりなれど、極端にダイアローグを削ぎ落とした演出によって、初期の北野武映画を思わせる乾いたハードボイルド・タッチが全編を包み込んでいる。
よって、主人公とヒロインのアイリーン(キャリー・マリガン)が少しずつ心の距離を縮めていく過程も、お互いを見つめる眼差し、思わずほころぶ口元、絡まる手と手というショットの連なりによって、極めて“映画的”に提示されている。
眼を覆いたくなるような暴力シーンが満載のこの映画にあって、エレベーターでのキスシーンは、とてつもなく甘美な瞬間として我々の脳裏に記憶される。唇を重ねるやいなや、カメラは二人を祝福するかのように回転を始め、スローモーションとなり、何故だかスポットライトが真上から浴びせられる!
過剰な演出は徹底して回避しつつ、男女のエモーションがMAXに高揚した場面だけは、とてつもなくロマンティックに撮りあげているのだ(その直後には凄惨すぎる暴力シーンが待ち受けているのだが)。
特に僕が感銘を受けたのが、照明設計。車内灯のオレンジ色が人物を淡く照らす青白い車内、夥しい電球の数のフロアスタンドがケバケバしい空間をつくりだす高級クラブ…。『ドライヴ』には様々な色に溢れている。
最高にクールなクライム・サスペンスの条件は、とろめくように美しい光と影が必須のファクターなのだ。
- 原題/Drive
- 製作年/2011年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/100分
- 監督/ニコラス・ウィンディング・レフン
- 製作/マーク・プラット、アダム・シーゲル、ジジ・プリッツカー、ミシェル・リトヴァク、ジョン・パレルモ
- 製作総指揮/デヴィッド・ランカスター、ゲイリー・マイケル・ウォルターズ、ビル・リシャック、リンダ・マクドナフ、ジェフリー・ストット
- 原作/ジェイムズ・サリス
- 脚本/ホセイン・アミニ
- 撮影/ニュートン・トーマス・サイジェル
プロダクションデザイン/ベス・マイクル - 衣装/エリン・ベナッチ
- 編集/マット・ニューマン
- 音楽/クリフ・マルティネス
- ライアン・ゴズリング
- キャリー・マリガン
- ブライアン・クランストン
- クリスティナ・ヘンドリックス
- ロン・パールマン
- オスカー・アイザック
- アルバート・ブルックス
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