世俗のモラルなんぞアウト・オブ・眼中。実相寺昭雄が生み出した観念的小宇宙
姉弟相姦に母子相姦に3P、これまさにアンチ・モラルの無限地獄!
『無常』(1970年)は、琵琶湖近くの旧家という日本的風土のなかで、ハードコアな濃厚エロスが醸成される激ヤバムービー。さすがは実相寺昭雄センセイ、劇場用映画第一作となる『無常』から、トンデモな映画をドロップ。
松竹ヌーヴェルヴァーグの中心的役割を果たした、石堂淑朗のシナリオを元に、彼の代名詞ともいえる移動撮影や広角レンズを多用した緊張感溢れる構図を駆使して、観念的小宇宙とでも言うべき作品を創りだしている。
大阪で会社経営を営む父親の跡を継ぐことを嫌い、ひたすら仏像の魅力に取り憑かれて行く正夫(田村亮)。姉の百合(司美智子)とふざけあっているうちに一線を越えてしまい、やがて彼女は正夫の子を宿してしまう。
百合に惚れている書生の岩下(花ノ本寿)に姉子を預けて、正夫は京都の仏像師(岡田英次)に弟子入り。ここでも彼は、師匠の若妻と肉体関係を結ぶなどやりたい放題。…というのがだいたいの粗筋。
とにもかくにも、田村亮の無軌道っぷりがハンパなし。姉と肉体関係を結んでしまっても、「これが自然なんや」なんてセリフをのうのうと言ってのける。
世俗のモラルなんぞアウト・オブ・眼中。彼の行動原理は、刹那的な虚無感などではなく、単純な道徳観&宗教観に対するカウンターとして理論武装された無常観だ。
澁澤龍彦のごとく快感原則にのっとっている訳ではなく、徹底的に実存的問題を拡張させた結果、エブリシング・オーライな理論が生成されたのだ。
インセスト・タブーすら全然オッケー!という不遜な態度で、天国とは何ぞや、地獄とは何ぞやという根源的な問いを田村亮は僧侶に仕向ける。モラルとアンチ・モラルが交錯するスリリリングなディスカッション。
「この世界には極楽も地獄も罪も罰も存在しないのだ!」と断言する彼の前に、仏教的倫理は言葉を失ってしまう。極めて観念的な物語が、突如言葉によって編み上げられた論理的展開をみせるのは正直驚いたが、そのあたりがアナーキーへ疾走した’60年代~’70年代の自己弁明というところか。
それにしても映画の冒頭近く、野武士の格好をして乱入してきた小林昭二はいったい何だったんだろう。実相寺昭雄が監督をしていた『ウルトラマン』(1966年〜1967年)繋がりのキャスティングだったにせよ、あのムラマツキャップがキチ◯イ系の役で数秒だけ出演、というのは何とも寂しくなってしまうのだが。
仏像師のドラ息子役は、『宇宙戦艦ヤマト』(1974年〜1975年)の主題歌でもお馴染みの佐々木功。若い頃からいい声してます。義母とセックスするシーンで、どこからか「次は胸の運動~」なんていうラジオ体操が流れてくるシーンはちょっと笑っちゃいました。
でもこのヒト、やっぱりエロいシーンは全然似つかわしくない。
- 製作年/1970年
- 製作国/日本
- 上映時間/143分
- 監督/実相寺昭雄
- 製作/淡島昭
- 脚本/石堂淑朗
- 撮影/稲垣涌三、中堀正夫、大根田和美
- 美術/池谷仙克
- 音楽/冬木透
- 照明/佐野武治、林光夫、加藤慶一
- 編集/柳川義博
- 録音/大沢哲三、泉田正雄、広瀬浩一
- 田村亮
- 司美智子
- 岡田英次
- 花ノ本寿
- 田中三津子
- 佐々木功
- 菅井きん
- 小林昭二
- 寺田農
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