アクションはラブシーンのように切なく、ラブシーンはアクションのように暴力的。死へと疾走するラブストーリー
この映画のキャッチコピー「凶暴な純愛」というのは、まさに言いえて妙だ。
『ニキータ』(1990年)でもそうだったが、リュック・ベッソンは純粋すぎるが故に生きることが不器用な人間たちを、温かな視点で包み込む。しかし映画の温度は高い。ヒリヒリすような、皮膚を切り刻まれるような感覚。そして、それをうまくすくいあげるエリック・セラの旋律。
この物語が切ないのは、「殺し」という宿命を背負った男と少女の未来に光が差し込まないことを、観る者が本能的に察知してしまうからだ。彼等の逃避行が悲劇的な結末で終わらない訳がない。
つかの間の幸せを噛み締めるレオン(ジャン・レノ)とマチルダ(ナタリー・ポートマン)のシークエンスすら、もはやハッピー・サッドの極致。そしてリュック・ベッソンは容赦なく、皆の思惑通りに物語を進めていくのだ。
このようなラブストーリーが成立したのも、ナタリー・ポートマンというスキャンドールの存在があったからこそ。イスラエル人の血を半分受け継ぐエスニックな美しさは、かつてのブルック・シールズをはるかに凌駕する。
シールズは「カラダは子供でココロは大人」という微妙なバランスを体現してみせたが、ポートマンにはさらに「母性」という飛び道具さえ備えてしまった。20世紀最後のシネマ・ロリータ。末恐ろしい。
ぶっきらぼうな演技パターンしか持ち合わせていないジャン・レノも、まさに水を得た魚のようなハマリ役。ミルク好きで植木鉢を大事に育てているという小道具の使い方もナイス。
ただ、個人的にはゲーリー・オールドマンのオーバー・アクトには興をそそがれたクチである。ベートーベン聴いてトリップするなんぞ、すでにキューブリック先生が『時計じかけのオレンジ』(1971年)で実践している。偉大なる先行例には遠く及ばず、と思ってしまう次第。
アクションシーンはラブシーンのように切なく、ラブシーンはアクションシーンのように暴力的に。『レオン』は、死へと疾走するラブストーリーである。
ゼロ年代以降は、才能が枯渇しきったかのように駄作ばかりリースしているリュック・ベッソンだが、間違いなくこの作品は映画史にその名を刻むスタンダード・フィルムである。
- 原題/Leon
- 製作年/1993年
- 製作国/フランス、アメリカ
- 上映時間/111分
- 監督/リュック・ベッソン
- 脚本/リュック・ベッソン
- 製作総指揮/クロード・ベッソン
- 撮影/ティエリー・アルボガスト
- 美術/ダン・ウェイル
- 編集/シルヴィ・ランドラ
- 音楽/エリック・セラ
- ジャン・レノ
- ナタリー・ポートマン
- ゲーリー・オールドマン
- ダニー・アイエロ
- ピーター・アペル
- マイケル・バダルコ
- エレン・グリーン
- サミー・ナセリ
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