エロい!エロい!エロい!
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いやーまさかこんなにエロい映画とは思わなんだよ。小生、ただいまちょっと興奮しております。
何がエロいって、ARATAがペ・ドゥナのお腹に口をつけて、空気を入れようとする場面が最高にエロい。それって、「エロスとは、煎じ詰めれば人と人との関係性である」ということじゃあーりませんか。
昔の会社の同僚が、「いやーすっごい貧乏で可哀想な風俗嬢がいてさ、その身の上話聞いてて俺すっげー燃えたんだよね」というどーでもいい話をしてきたことがある。つまり彼は、経済的勝者の自分と、経済的敗者の風俗嬢との関係性に、エロスを感じている訳だ。
だとするなら、その最高到達点は“死”をコントロールすること以外にありえない。阿部定みたく、オトコのナニをチョン切っちゃうような、生殺与奪権を共有し合う関係こそが、エロスの臨界点なんである。
なるほど、ゴム類似物質で出来たダッチワイフならば、空気を抜いてはまた空気を吹き込むことで、“生と死”の両方をコントロールできる。これまさに、エンドレスな恍惚状態。
実際、是枝裕和は原作の短編漫画『ゴーダ哲学堂 空気人形』を読んだときに、そのシーンに最もエロスを感じたそうな(変態ですね)。
自己完結ではなく、人と人とのコミュニケーションが成立して、初めてリビドーっちゅうもんは掻き立てられるものなんである。
これまで是枝裕和は、象徴主義的な手つきで、人と人との関係性を見つめてきた。フィックスのカメラによる即物的ショットと、分かるようでよく分からん思わせぶりな台詞の数々。その映像と言葉の隙間からこぼれてくる内実を、是枝監督は丁寧に掬い上げてきた。
しかし、ある日ダッチワイフにココロが宿ってしまうというお話の『空気人形』は、即物的とはほど遠い、非現実的なファンタジー映画。そこで彼は、今までの撮影スタイルを放棄、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の映画で知られる撮影監督リー・ピンビンを起用して、浮遊感のある詩的な映像を構築した。
ペ・ドゥナのプレゼンスに至ってはもはや神の域。一人の女優の演技にここまで圧倒されたのは、正直近年あまり記憶がない。
好奇心に満ちた目で世界に対峙し、メイド姿でヒョコヒョコと歩きながら、少しずつ人間としての所作を覚えていくプロセスには、感動すら覚える(それにしても、あれほど極端なミニスカートばかり履いていたのは、監督の個人的趣味が暴走したせいか?)。
この映画は特に順撮りをしていないらしいので、空気人形が時間の経過と共に表情豊かになっていく過程も、ペ・ドゥナは場面ごとに演技を微修正していた訳だ。すっげー。
前言をいきなり撤回するようだが、冒頭からペ・ドゥナの胸の膨らみをしっかり捉えるなど、その視線は男性主導的エロスに満ちているものの、肝心のペ・ドゥナ自身の肉体から発せられるオーラは、微塵もエロくない。
モデル出身だけあって、手足のスラリと伸びた171センチの長身、筋肉質で均整のとれたバディーは美しく神々しいのだが、その身体はあらゆる性的欲望の眼差しを、スルリとすり抜けてしまうのだ。
韓国のトップ女優に、ダッチワイフを演じさせるというよこしまな企みすらも、軽々と飄々と乗り越えてしまう彼女の計り知れない存在感に、僕は感嘆の念を禁じ得ず。
ただ僕がこの映画に対して不満なのは、ドラマに配置された他の女性たち…過食症の少女(星野真里)、毎日のように交番に出向いてはやってもいない事件を自首する老婆(富司純子)、少しばかりトウの過ぎたOL(余貴美子)…が、都会でよるべない日々を過ごしていく存在としか描かれていないこと。
空気人形との邂逅が剥奪されているばかりか、そもそも物語自体に関与していない。彼女たちは文字通り空っぽの人間としてスクリーンに表出される。
心の空洞を埋めるツールとしてセックスは利用されるが、その機会すら彼女たちには与えられない。まるで、セックスレス・ライフは孤独の象徴である、と言っているかのごとく。ゴミの山に横たわるペ・ドゥナの姿を見て、思わず「奇麗」とつぶやく星野真里のクローズアップに、僕は妙な心のざわつきを覚える。
是枝裕和は大変なロマンチストであると同時に、大変なシニカリストでもあるんではないか。少なくともこの映画に、僕はそんなものは望んでいないのだが。
- 製作年/2009年
- 製作国/日本
- 上映時間/116分
- 監督/是枝裕和
- 脚本/是枝裕和
- 製作/川城和実、重延浩、久松猛朗、豊島雅郎
- プロデューサー/浦谷年良、是枝裕和
- アソシエイツプロデューサー/加藤悦弘
- ラインプロデューサー/田口聖
- 原作/業田良家
- 撮影/リー・ピンビン
- 美術/種田陽平
- 編集/是枝裕和
- 音楽/world’s end girlfriend
- 衣裳/伊藤佐智子
- 録音/弦巻裕
- ペ・ドゥナ
- ARATA
- 板尾創路
- 高橋昌也
- 余貴美子
- 岩松了
- 丸山智己
- 柄本佑
- 星野真里
- 寺島進
- オダギリジョー
- 富司純子
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