【思いっきりネタをばらしているので、未見の方はご注意ください。】
ジョン・フランケンハイマー監督、フランク・シナトラ主演で1962年に公開された『影なき狙撃者』を、監督ジョナサン・デミ、出演デンゼル・ワシントン、メリル・ストリープ、ジョン・ヴォイトという錚々たるアカデミー・ウィナーを揃えてリメイク。
しかし期待に反して興行的・批評的には当たらず、またしてもジョナサン・デミは“『羊たちの沈黙』だけの一発屋監督”という認識を払拭できず。力はある監督なのに、かえすがえすも作品に恵まれないヒトである。
内容としては、大統領選で党の副大統領候補に指名された湾岸戦争の英雄が、実はマインド・コントロールされていたという国家的陰謀を解き明かしていく社会派サスペンス。
原題は『The Manchurian Candidate』で、直訳すると「満州の候補」という意味不明なタイトルなんだが、かつて日本が満州に傀儡政権を樹立していたことから、転じて「操り人形」という意味になる訳で、映画のテーマにばっちり符号する。
この原作が出版されたのは、資本主義と共産主義の代理戦争である、朝鮮戦争のまっただ中。タイトルに、マンチュリアン(満州)というワードがあることには必然性があるのだが、時代設定を現代に置き換えたこのリメイク版では、トーゼンのごとく満州は物語に全く関与せず。
そこで、大統領を意のままに操って実権を握らんとする巨大企業の名前を、マンチュリアン・グローバル社にすることによって、タイトルにマンチュリアンがつく必然性を確保している。ま、どーでもいいことですけど。
考えてみれば、この映画が公開された2004年は、アメリカの歴史でも指折りの不人気大統領ジョージ・ブッシュの政権時。多大な支援を受けていた石油会社の操り人形とも揶揄されていたことから、ブッシュ政権に対する間接的な異議申し立てという側面もあったのかもしれない。
主演を務めているデンゼル・ワシントンが筋金入りの民主党支持者であり、バラク・オバマの大統領就任記念レセプションにも登場していることからも、それは顕著だ。
だがこの映画は純粋に政治的な側面だけではなく、子と母親の姦通関係を想起させるギリシャ神話的モチーフ(父親を殺害して母親と交わったオイディプース王のエピソード)も織り込まれていたりするので、なかなかややこしい。
特に後半は真実を解き明かそうとするデンゼル・ワシントンの奮闘ぶりよりも、メリル・ストリープとリーヴ・シュレイバーのアヤしすぎる母子関係のほうが、物語を牽引する原動力になっており、なかなか直線的にドラマが盛り上がってこないのが残念。
デンゼル・ワシントンが自分の記憶に疑問を持つようになるプロセスも、編集が性急すぎるせいでやや説得力に欠け、彼の神経をすり減らす悪夢のイメージも、単調かつ凡庸なカットの積み重ねで、強烈なナイトメアとしてビジュアライズしきれていない。
ジョナサン・デミは、アメリカのクライシスよりも、己のフィルムメーカーとしてのクライシスをまず処理すべきだろう。
- 原題/The Manchurian Candidate
- 製作年/2004年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/130分
- 監督/ジョナサン・デミ
- 製作/ジョナサン・デミ、イロナ・ハーツバーグ、スコット・ルーディン、ティナ・シナトラ
- 製作総指揮/スコット・アヴァーサノ
- 原作/リチャード・コンドン
- 脚本/ダニエル・パイン、ディーン・ジョーガリス
- 撮影/タク・フジモト
- 美術/クリスティ・ズィー
- 衣装/アルバート・ウォルスキー
- 編集/キャロル・リトルトン、クレイグ・マッケイ
- 音楽/レイチェル・ポートマン、ワイクリフ・ジョン
- デンゼル・ワシントン
- メリル・ストリープ
- リーヴ・シュレイバー
- ジェフリー・ライト
- キンバリー・エリス
- ジョン・ヴォイト
- ブルーノ・ガンツ
- テッド・レヴィン
- ミゲル・ファーラー
- サイモン・マクバーニー
- ヴェラ・ファーミガ
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