『スピード』(1994年)の何が凄いって、人物描写や舞台背景なんてまるで無視した脚本である。
ただひたすらにアクション一直線。ハリウッドのマッチョ主義を突きつめた美学がここにある。ここまでカツドウシャシンに徹されると、人間を描いていないなんていう陳腐な悪口すら無力だ。
監督のヤン・デ・ボンは、『ダイ・ハード』(1988年)や『リーサル・ウェポン』(1987年)等の、バリバリのアクション映画で撮影監督を務めてきた人である。バスやらジェット機が爆発するシーンはお手のものだが、ドラマ描写は素人同然。
そこを逆手にとって、「不純物一切なし・アクション度100%の映画」を撮りあげたというのは、なかなか賢い選択だったといえる。
面白いのは三重構造になっているアクション設計。エレベーター、大型バス、そして地下鉄と「動く密室」のシチュエーションを三つ並列に並べて(最初のエレベーターでは縦移動のアクションを、そして続くバス、地下鉄のシーンでは横移動のアクションを軸にしている)空間をうまく使っているあたり、やはり撮影監督出身の巧妙な計算か。
キャスト陣だが、キアヌ・リーブス演じるSWAT隊員はあまりにもステレオタイプのヒーロー然としており、『ダイ・ハード』のブルース・ウィリスがみせたような人間臭さは微塵も感じられない。単なるマッチョな二枚目役を鍛えられた筋肉で演じているだけだ。
敵役を嬉々として演じるデニス・ホッパーはさすがの貫禄はあるものの、このような凶行に及んだバックグラウンドが見事に欠落しているために人物造型に深みがない。
しかし深みがあろうがあるまいが、我らが変態オヤジ、デニス・ホッパーはサイコ一直線。もうトシなんだから無理しないでね、なんて余計な心配してしまった。
サンドラ・ブロックは好演。単なるヒロイン役に納まらず強烈なパーソナリティーを発揮し、作品にさわやかなアクセントをつけている。彼女はこの映画でスターダムにのしあがったのだ。
細かいことは抜きにして、とにかく痛快な映画を観たいなら『スピード』はお勧めの作品である。頭を空っぽにして楽しんでください。
- 原題/Speed
- 製作年/1994年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/ 115分
- 監督/ヤン・デ・ボン
- 製作/マーク・R・ゴードン
- 製作総指揮/イアン・ブライス
- 脚本/グラハム・ヨスト
- 撮影/アンジェイ・バートコウィアク
- 音楽/マーク・マンシーナ
- 美術/ジャクソン・デ・ゴヴィア
- 編集/ジョン・ライト
- キアヌ・リーヴス
- デニス・ホッパー
- サンドラ・ブロック
- ジョー・モートン
- ジェフ・ダニエルズ
- アラン・ラック
- グレン・プラマー
- リチャード・ラインバック
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