皮膚感覚の回復、身体感覚の奪還。今敏がチャレンジした果敢な目論見
『パーフェクトブルー』(1997年)、『千年女優』(2002年)、『パプリカ』(2006年)など、国内外で評価の高いアニメーションを世に送り出し続けている今敏監督だが、僕は恥ずかしながら彼の作品は全て未見だったので、今回一念発起して“今敏童貞”を切ることを決意。
特に何の理由もなくチョイスしたのが『東京ゴッドファーザーズ』(2003年)だったんだが、まさかこれほどまでにコテコテの「人情モノ」とは思いませんでした。
ほろ苦くも哀しくて可笑しい“山田洋次的ドタバタ劇”なのに、作画クオリティーはハイレベル(まあマッドハウスだからね)という、ヘンにミスマッチな映画なんである。
今敏は製作ノートのなかで、「芝居そのものを見せ物に出来まいか、という発想からこのストーリーを組み立てていった」と語っている。
なるほど、確かにこの作品の基本的なフォーマットは、ゴミ捨て場で拾った赤ん坊を実の親に返そうと、3人のホームレスが奮闘する悲喜劇だ。
自称元競輪選手(実は自転車屋の親父)のギンちゃん、元ドラッグ・クイーンのハナちゃん、家出少女のミユキの彼らのちょっと間の抜けた悪戦苦闘ぶりに笑い、彼らの一途で真摯な想いに共感し、そして泣かされてしまう。
言うまでもなくアニメーションの最大の武器は、「動きのダイナミズム」にある。現実世界では成立し得ないアクションを二次元の世界に導入することによって、視覚的興奮を覚えさせることに有効なメディアなのだ。
しかし日本アニメ界の“ご意見番”押井守は、「最近はアニメーションの中で、登場人物が演技できるようになってきましたねー?」というインタビュイーの問いかけに対し、
「実写の方がどんどん後退していって、宮さん(宮崎駿)は、アニメーションで情緒的な存在を描こうとしている。実写とアニメーションが、微妙に逆転しているんです」
と答えている。同じインタビューのなかで、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが「『踊る大捜査線』の登場人物が汗をかかないことに驚いた。これは感覚を失った若者たちの映画だ」と発言していることも興味深し。
今敏が『東京ゴッドファーザーズ』で目指したのは、実写映画で失われつつある皮膚感覚の回復であり、身体感覚の奪還である。鬱陶しいぐらいのベタベタ人情喜劇はその結実であり、ジャパニメーションが新たなネクスト・レベルに到達したことの証だ。
個人的にこのテの話が好きくないっちゅーのは置いといて、その果敢な目論見に対し、僕は万雷の拍手を送るものであります。
パチパチ。
- 製作年/2003年
- 製作国/日本
- 上映時間/90分
- 監督・原作・脚本・キャラクターデザイン/今敏
- 脚本/信本敬子
- 音楽/鈴木慶一
- 演出:古屋勝悟
- キャラクターデザイン・作画監督/小西賢一
- 美術/池信孝
- 撮影/須貝克俊
- 撮影/スタジオイプセ
- 音響/三間雅文
- 製作プロデューサー/豊田智紀
- アニメーション製作/マッドハウス
- 江守徹
- 梅垣義明
- 岡本綾
- 飯塚昭三
- 加藤精三
- 石丸博也
- 大塚明夫
- 小山力也
- 犬山犬子
- 柴田理恵
- 山寺宏一
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