インナーワールド炸裂の、サイバーパンク・アニメーション
『鉄コン筋クリート』(2006年)の舞台となる宝町は、アジアン・ゴシック+サイバーパンクなテクスチャーに彩られた、無国籍風都市。
だが映画化にあたって、そのスタッフも国籍ボーダーレスな面々が集結するとは思わなんだ。音楽を担当したPlaid(プラッド)はイギリスのエレクトロニカ・ユニットだし、脚本のAnthony Weintraubは…よく知らんが外国人だし。
おまけに、監督を務めるマイケル・アリアスは、ハリウッド・ムービーのVFXスタッフとしてキャリアを積んだ後、日本に渡って1年ほどIMAGICA特撮映像部に在籍したという、一風変わった経歴の持ち主。
元CGプログラマーの彼としては、松本大洋の原作漫画をアニメ化するにあたって、何よりもまず躍動的なダイナミズムを指向したんではないか。
実際、彼はさるインタビューで「この作品はほとんどのカットでカメラが動いている。宝町に行ってシロとクロを発見し、こっそり追いかけているホームムービー風にしたかった」と発言している。アニメーションとしては異例の手持ちカメラ風映像なのも、その表れだろう。
しかしながら、映画は意外にもインナーワールド炸裂。何てたって、主人公の名前がシロとクロだ。相反する元素である陰と陽を調和させることによって、初めて自然の秩序が保たれるという「陰陽の原理」が重要なモチーフであることは火を見るよりも明らか。
シロとクロは二人合わせてひとつの存在。そしてクロ自身、心の奥底に光と影を内包している。「他者からの承認&己の存在証明」という哲学的モチーフによって、映画が牽引されていく。
最終的には、自分の暗黒面と対峙するという内面世界で物語が展開するんだが、これってやっぱり「エヴァンゲリオン症候群」から脱却できてないってコトか。
「自我」とか「存在理由」の確認って、’90年代にやたらめったら乱造された、手垢のついた題材のように思えてしまう。
青春時代、それを思いっきりリアルタイムで通過してきた者としては、『鉄コン筋クリート』が掲げるテーマにどうしても「今更感」がつきまとう。もちろんこの「今更感」は、僕よりも一回り若い世代には、ピンポイントな「現実感」として受け止められることだろうが。
90年代における鬱屈とした閉塞感は、新世紀を迎えれば「アルマゲドンやら何やらで一気に解放される」と純朴に信じていたんだが、ゼロ年代の若者にとっては、閉塞感こそがデフォルトでインプットされている標準的な世界認識。
この映画が’70年代や’80年代に製作されていれば、閉塞感を表象している宝町は音を立てて崩壊したんだろうが、実際には変容しながらも生きながらえることになる。外側よりも内側に向かって物語が進行するのは、我々には今更感があるにせよ、必然的帰結だったのだ。
どーでもいいことですが、昔付き合っていた彼女がやたら「こちら地球星、シロ隊員。応答どうじょー」ってシロの物真似していたことが思い出されます。元気かな。
- 製作年/2006年
- 製作国/日本
- 上映時間/111分
- 監督/マイケル・アリアス
- 演出/安藤裕章
- 脚本/Anthony Weintraub
- 総作画監督・キャラクターデザイン/西見祥示郎
- 美術監督/木村真二
- CGI監督/坂本拓馬
- 作画監督/浦谷千恵
- 作画監督・車両デザイン/久保まさひこ
- 色彩設計/伊東美由樹
- 動画監督/梶谷睦子
- 音楽/Plaid
- 編集/武宮むつみ
- アニメーション製作/STUDIO 4℃
- 二宮和也
- 蒼井優
- 伊勢谷友介
- 宮藤官九郎
- 田中泯
- 納谷六朗
- 西村知道
- 麦人
- 大森南朋
- 岡田義徳
- 本木雅弘
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