『おおかみこどもの雨と雪』(2012年/細田守)
テーマと意味をネタバレ考察・あらすじ・批評・レビュー
『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)は、細田守が監督を手掛け、興行収入42億円の大ヒットを記録したアニメーション。女子大生の花(宮崎あおい)は、人間の姿で暮らす「おおかみおとこ」(大沢たかお)と数奇な恋に落ち、雪と雨というふたりの「おおかみこども」を授かる。しかし、突然の悲劇により彼を失った花は、子どもたちの秘密を守るため、都会を離れて過酷な大自然の田舎町へと移り住む。
- 世界を祝福する細田守の信念
- 細田守は、宮崎駿映画のベストワンに『となりのトトロ』(1988年)を挙げている。その理由は、「何も特別な事件が起こらないから」という、実に彼らしいもの。 ダイナミックな爆発や派手なアクションを一切排した、静かで日常的な非アニメ的手つき(いや、細田守にとってはそれこそがアニメ的なんだろうけど)こそ、彼が深く信奉するスタイルなのである。 『おおかみこどもの雨と雪』もまた、何気ない日常の一コマ一コマに、職人技と研ぎ澄まされた演出が施された、究極の非アニメ的アニメである。 冒頭の約10分間は、ほぼセリフなし・劇伴のみの演出で、花とおおかみおとことの静かな恋を描出。リアリティのある生活感を生み出すために、実写映画で活躍するスタイリストの伊賀大介を衣装担当として起用。 さらには、小学校の学年が次々と変わることによって時の移ろいを横スクロールのワンカットで表現してみたりと、とにかく芸が細かく、そして恐ろしく映画的だ。 何せ、アニメとしては異常なほどにヒキの画が多いし、ワンカットが長い。まるで実写のカメラをそこに置いたかのような…そう、細田が敬愛してやまない名匠・相米慎二監督を強烈に意識したかのような映像設計なのだ。 そういや、本作で共同脚本を担当している奥寺佐渡子は、相米慎二監督の傑作『お引越し』(1993年)を手がけた人物。嵐が吹き荒れるなか、子供達が校舎に閉じ込められ、野生と人間性の間で揺れ動くという設定は、思いっきり相米の『台風クラブ』(1985年)を彷彿とさせる。実はコレ、細田守流の極上の相米慎二オマージュ映画なのか? お引越し 相米慎二 Amazon だが『おおかみこどもの雨と雪』は、『台風クラブ』のように「子供達のある数日間」を切り取っただけの映画ではない。恋愛、出産、過酷なワンオペ育児、田舎への移住、そして避けられない親離れ。足掛け13年にもおよぶ、一人の女性と子供たちの壮大なクロニクルなのだ。 細田守は影響を受けた映画として、ビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』(1973年)を挙げている。フランケンシュタインの幻影に魅せられた内向的な少女アナが、少しずつ世界の残酷さと美しさを認識していくという、通過儀礼の物語だ。 ミツバチのささやき ビクトル・エリセ Amazon この映画もまた、「人間として社会で生きるのか、それとも狼として自然の中で生きるのか」というアイデンティティの選択を迫られた少年・少女たちの通過儀礼を描いている。 完璧すぎる母親像とCGの違和感
世界を祝福する細田守の信念
細田守は、世界を祝福する。どれほど現実の世の中が不信に満ちていようと、理不尽な災厄が降りかかろうと、彼はスクリーンを通じてこの世界を慈しむ。
細田守という映画作家を根底から支える強靭な屋台骨、それは初々しいまでに愚直な肯定力だ。揺るぎないその信念が、SNS社会でコミュニケーション不全に陥り、すっかりねじくれてしまった僕らのハートを、力強く、そして優しく解きほぐし、柔らかく包み込むのである。
自分の身近で子供ができた夫婦が増えてきて、親になった彼ら、特に母親がカッコよく、輝いて見えました。それで子育ての話を映画にできないかなと思ったんです
と、細田は『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)の着想のきっかけを語っている。児童虐待や育児放棄といったネグレクト問題が蔓延するこのご時世に、「子育てって素晴らしい!」という直球すぎる題材を、なんのてらいもなく直球アプローチで描こうというのだから、その真っ直ぐさには恐れ入る。
かくして完成した本作は、どんなやさぐれマインドもいとも容易く溶解させてしまう、超ド級の肯定力全開ムービーに仕上がった。
『劇場版デジモンアドベンチャー』(1999年)、『時をかける少女』(2006年)、『サマーウォーズ』(2009年)と、彼はエンタメのの限りを尽くしたかのような娯楽大作をリリースしてきた。
自らの制作会社スタジオ地図を立ち上げて挑んだ本作は、いよいよ彼の本質的な作家性と資質が、リミッターを解除して全面展開された記念碑的映画と言っていいだろう。
細田守は、宮崎駿映画のベストワンに『となりのトトロ』(1988年)を挙げている。その理由は、「何も特別な事件が起こらないから」という、実に彼らしいもの。
ダイナミックな爆発や派手なアクションを一切排した、静かで日常的な非アニメ的手つき(いや、細田守にとってはそれこそがアニメ的なんだろうけど)こそ、彼が深く信奉するスタイルなのである。
『おおかみこどもの雨と雪』もまた、何気ない日常の一コマ一コマに、職人技と研ぎ澄まされた演出が施された、究極の非アニメ的アニメである。
冒頭の約10分間は、ほぼセリフなし・劇伴のみの演出で、花とおおかみおとことの静かな恋を描出。リアリティのある生活感を生み出すために、実写映画で活躍するスタイリストの伊賀大介を衣装担当として起用。
さらには、小学校の学年が次々と変わることによって時の移ろいを横スクロールのワンカットで表現してみたりと、とにかく芸が細かく、そして恐ろしく映画的だ。
何せ、アニメとしては異常なほどにヒキの画が多いし、ワンカットが長い。まるで実写のカメラをそこに置いたかのような…そう、細田が敬愛してやまない名匠・相米慎二監督を強烈に意識したかのような映像設計なのだ。
そういや、本作で共同脚本を担当している奥寺佐渡子は、相米慎二監督の傑作『お引越し』(1993年)を手がけた人物。嵐が吹き荒れるなか、子供達が校舎に閉じ込められ、野生と人間性の間で揺れ動くという設定は、思いっきり相米の『台風クラブ』(1985年)を彷彿とさせる。実はコレ、細田守流の極上の相米慎二オマージュ映画なのか?
だが『おおかみこどもの雨と雪』は、『台風クラブ』のように「子供達のある数日間」を切り取っただけの映画ではない。恋愛、出産、過酷なワンオペ育児、田舎への移住、そして避けられない親離れ。足掛け13年にもおよぶ、一人の女性と子供たちの壮大なクロニクルなのだ。
細田守は影響を受けた映画として、ビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』(1973年)を挙げている。フランケンシュタインの幻影に魅せられた内向的な少女アナが、少しずつ世界の残酷さと美しさを認識していくという、通過儀礼の物語だ。
この映画もまた、「人間として社会で生きるのか、それとも狼として自然の中で生きるのか」というアイデンティティの選択を迫られた少年・少女たちの通過儀礼を描いている。
完璧すぎる母親像とCGの違和感
だが、この映画にはどうしても違和感がある。子育ての経験のある現実の母親がこの作品を観たら、花のあまりの完璧さに少なからず嫌悪感を抱くのでは?という懸念を僕は抱いてしまったのだ。
シングルマザーで獣人の育児という超ハードワークが、美しいファンタジーとして綺麗に昇華されすぎているきらいがあるし、そもそも花というキャラクターが、あまりにも男性にとって都合の良い理想の母親像すぎる。
なんつったって、どんなに家計が苦しくても、子供が家を破壊しても、優しい・絶対に怒らない・そして可愛いの三大要素を常にキープし続けているのだ!
どんな艱難辛苦もラブリーな笑顔で切り抜ける彼女の姿には、現実のママたちから「子育て舐めんなよ!」という鼻息の荒いツッコミが飛んできそう。それは、農家の老爺・韮崎(菅原文太)の「ヘラヘラ笑うな!」という一喝にも通じる感覚だろう。
3DCGによって極めて細密に表現された、実写と見間違うばかりの大自然の背景美術にも、個人的にはいまひとつしっくりこない。影の少ないフラットなキャラクターと背景のリアリティ・レベルが違いすぎて、ひとつの絵の中に混在していることに最後まで違和感を感じまくりだった。
だが、そんな細かなツッコミすらも、最終的には本作の持つ圧倒的なエモーションがすべてねじ伏せてしまう。アニメーションの説話法的にも、ビジュアル・エフェクト的にも、この作品によって細田守がさらなる高みで“肯定力”を爆発させんとしていることは、スクリーンからビンビンに伝わってくる。
ラストシーン、山へと去っていく雨に向けて、花が泣き笑いの顔で叫ぶ「しっかり生きて!」という言葉。あの一言に、すべての親の祈りが込められているのだ。
- 監督/細田守
- 脚本/細田守、奥寺佐渡子
- 製作/齋藤優一郎、伊藤卓哉、渡邊隆史
- 製作総指揮/奥田誠治
- 制作会社/スタジオ地図、マッドハウス
- 原作/細田守
- 音楽/高木正勝
- 編集/西山茂
- 衣装/伊賀大介
- キャラクターデザイン/貞本義行
- 作画監督/山下高明
- 美術監督/大野広司
- 時をかける少女(2006年/日本)
- サマーウォーズ(2009年/日本)
- おおかみこどもの雨と雪(2012年/日本)
- 果てしなきスカーレット(2025年/日本)
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