見上げれば、突き抜けるような青空。それを覆い尽くすように連なる巨大な積乱雲。傍らには、まどろむミニチュア・ダックスフント。
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』には、のどかで牧歌的な風景が広がっている。しかしその彼岸では、終わりのない殺戮行為が続いている。
かつて『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』で、「終わらない学園生活」というユートピア幻想を提示してみせた押井守は、新作『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』で、少年・少女たちの「永遠のモラトリアム」を、システムに回収された「漂白の青春」として描出してみせる。
パイロットとして出撃し、命のやりとりをし、帰還すれば友人と空虚な会話を交わし、酒を飲み、タバコを吸い、セックスをする。ただ繰り返し繰り返しループするだけの、ホープレスな日々。ここには、『ビューティフル・ドリーマー』のごとき楽園はない。
遺伝子制御薬の開発時に偶然誕生した“キルドレ”は、永遠の命を付与された存在だ。思春期で体の成長が止まる彼らは、外面はティーンエイジャーだが中身は大人。
死ぬことを剥奪され、自由への査証を剥奪され、十年一日のような日々が機械的に続いていく。だからこそ女性指揮官の草薙は、函南に「殺してあげようか?それとも私を殺してくれる?」と死に固執するようになる。
「同じ時代に、今もどこかで誰かが戦っているという現実感が、人間社会のシステムに不可欠な要素だから」
と草薙は場末のバーで語る。戦争はもはや国家間ではなく企業間による代理戦争だ。大人たちは子供達をバーチャルな戦争に駆り立て、子供達は規格化されたルールのなかで漂白された青春を突き進む。
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』という映画が醸し出す不思議な倦怠感は、生を剥奪された子供たちの青春ドラマという物語構造に起因している。
かつて「終わらない青春」を祝祭として描いた映像作家は、20年以上の時を経て、同様のテーマを子供達の神経症的トラウマとして描いた。
押井守はこの映画を「若い人に、生きることの意味を伝えたい」という想いでつくったと言うが、それは大人たちが作ったルールを破壊すること、すなわち「親殺し」というモチーフに結実するんではないか。
函南が「I kill my father」とつぶやいて、敵戦闘機“ティーチャー”と対決したように。
- 製作年/2008年
- 製作国/日本
- 上映時間121分
- 監督/押井守
- 演出/西久保利彦
- プロデューサー/石井朋彦
- 製作プロデューサー/奥田誠治、石川光久
- 原作/森博嗣
- 脚本/伊藤ちひろ
- キャラクターデザイン/西尾鉄也
- 作画監督/西尾鉄也
- 美術監督/永井一男
- 美術設定/永井一男、久保田正宏
- 色彩設定/遊佐久美子
- 編集/植松淳一
- 音楽/川井憲次
- 菊地凛子
- 加瀬亮
- 谷原章介
- 山口愛
- 平川大輔
- 竹若拓磨
- 麦人
- 大塚芳忠
- 西尾由佳理
- ひし美ゆり子
- 竹中直人
- 榊原良子
- 栗山千明
最近のコメント