ザ・ビーチ/ダニー・ボイル

ザ・ビーチ (特別編) [DVD]

『地獄の黙示録』が不完全な傑作足り得たのは、フランシス・フォード・コッポラが、ベトナム戦争を描いた映画を撮ろうとして、図らずもベトナム戦争そのものを映画内で起動させてしまった点にある。

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相次ぐ撮影困難や財政的圧迫によって、全てを司る者=コッポラがその権力を行使できず、アンコントローラブルなカオス状態になってしまったがゆえに、『地獄の黙示録』は生々しい症例報告として抗しがたい“引力” を持ち得たのだ。

イギリスの作家アレックス・ガーランドによるベストセラー小説を下敷きに、『トレインスポッティング』で世界的名声を受けたダニー・ボイル監督と、『タイタニック』で飛ぶ鳥を落とす大スターのレオナルド・ディカプリオがタッグを組んだ『ザ・ビーチ』は、ミレニアムの新しい『地獄の黙示録』に成り得る作品だった。

ビーチ

なにしろ、美しい小島で人知れずコミュニティを営む史上最後の楽園に辿り着いたリチャード(レオナルド・ディカプリオ)が、次第に野性を獲得するも最終的にはもろくも崩されるという、道徳観や倫理観に踏み込んだインナーワールド炸裂ムービーなのだから。

『トレインスポッティング』で爆裂演技を披露したロバート・カーライルが、この『ザ・ビーチ』でもリチャードを伝説の楽園に導く謎の男ダフィーを怪演。

向こう側の一歩手前、ほとんど正気と狂気の狭間にいるアッパラパー・アクティング!この奇天烈男を「奴は他の人間と何か違う」と崇拝の対象にさせることによって、リチャード自身が向こう側に片足を踏み入れていることを示唆する。

『地獄の黙示録』で最も有名なワンシーン、カーツ大佐が銃弾が飛び交う中サーフィンに興じる場面がこの映画でインサートされているが、ロバート・デュバル演じるこの軍人にも似た狂気を、否が応にも我々観客は期待してしまう。

しかし、『ザ・ビーチ』には何一つ狂ったビジョンはない。どこまでも計算し尽くされた、スタイリッシュな映像。リチャードが野性を獲得する過程のパラノイアは、テレビゲーム的映像として描かれる始末だ。

『地獄の黙示録』のウィラード少尉に心酔したかのような出で立ちのリチャードは、しかしながら最終的に正気を取り戻し、島を離れて都会に戻る。結局のところ、『ザ・ビーチ』は「楽園はあくまでも理想世界」というミもフタもない結論に収束する、

現代的若者の妄想話でしかない。話としては相当に矮小化されてしまってはいるが、それこそが2000年というミレニアム当時の世界認識。

フランシス・フォード・コッポラのように狂気を自ら引き寄せることはなく、ダニー・ボイルは狂気を妄想世界に押し込めることによって、自らは安全圏に避難したんである。

何でもこの映画の公開以降、舞台となったピピ島に押し寄せる観光客が激増したらしい。現在でもリチャードのように楽園を求めるバックパッカーは、後を絶たないようだ。

真の楽園は、現実世界には存在していない、と分かっているとしても。

DATA
  • 原題/The Beach
  • 製作年/2000年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/ 119分
STAFF
  • 監督/ダニー・ボイル
  • 製作/アンドリュー・マクドナルド
  • 原作/アレックス・ガーランド
  • 脚本/ジョン・ホッジ
  • 撮影/ダリウス・コンジ
  • 編集/マサヒロ・ヒラクボ
  • 音楽/アンジェロ・バダラメンティ
CAST
  • レオナルド・ディカプリオ
  • ティルダ・スウィントン
  • ヴィルジニー・ルドワイヤン
  • ロバート・カーライル
  • ピーター・ヤングブラッド・ヒルズ
  • ジェリー・スウィンドール
  • ギョーム・カネ
  • パターソン・ジョセフ
  • エレーヌ・ドゥ・フジュロール

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