それでも僕はやってない/周防正行

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『Shall we ダンス?』から、およそ10年というブランクを経て作られた周防正行の『それでも僕はやってない』は、痴漢冤罪を真正面から見据えた社会派ドラマ。

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まず何よりも特筆すべきは、「社会派ドラマとしての機能を果たしながら、エンターテンメント作品としての骨格を保つ」という、見事なバランス感覚。

エンタメ要素が強すぎると冤罪という社会派テーマが薄れてしまうし、社会派ドラマとしての色合いが濃すぎると途端に説教臭くなってしまう。このチューニングが絶妙なのだ。

そもそも彼は、黒沢清や青山真治と同じく、立教大学出身の蓮實重彦チルドレン。黒沢清は、あらゆる感傷性を排除したドン・シーゲル的なフィルムを志向し、青山真治は、恋愛・政治・人生を軽やかにスクリーン上で描出した、ジャン・リュック・ゴダール的なフィルムを志向した。

それに対して周防正行は、小津安二郎映画の引用を前編に散りばめた『変態家族 兄貴の嫁さん』を初監督作品としてドロップした以降は、多分にコメディー的な要素を含んだエンターテインメント作品を発表。

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周防正行の最大の武器、それはあらゆる題材をウェルメイドな作品に紡ぎ上げる職人的資質。本編においては、主人公の加瀬亮の描き方にそのバランス感覚が垣間見える。

本来であれば、観客を感情移入させるために必要な手続きの心象風景はほとんど描かれず(最後に『裁判所は真実を明らかにする場所じゃなくて、今ある証拠という名の素材からとりあえず有罪か無罪かを決めるだけの場所だ』というモノローグがあるのみ)、個人史やその背景も提示されない。

第三者的視点を保つことによって、観客自らが「陪審員」になったかのようなドキュメンタル的リアリティーを確保している。

巧妙なのは、実際に女子中学生が痴漢にあった瞬間の描写を、周防監督が意図的に避けていることだ。

決定的なその瞬間は、被疑者、被害者、証言者による「各々の主観的証言」によってかたちづくられる。我々は加瀬亮のイノセントな表情から、真実を類推するのみ。映画の構成そのものが、裁判所というシステムとリンクしている。

怒れる映画作家オリバー・ストーンのごとく、声高に主義・主張を語らせることもなく、淡々と、しかしながら緻密な構成によって力強く物語は展開していく『それでも僕はやってない』は、映画話法を知り尽くした職人によって産み落とされたフィルムである。

このような作品にこそ、僕は賛辞を贈りたい。

DATA
  • 製作年/2007年
  • 製作国/日本
  • 上映時間/143分
STAFF
  • 監督/周防正行
  • 製作総指揮/桝井省志
  • 製作/亀山千広、関口大輔、佐々木芳野
  • 脚本/周防正行
  • 音楽/周防義和
  • 撮影/柏野直樹
  • 美術/部谷京子
  • 編集/菊池純一
CAST
  • 加瀬亮
  • 役所広司
  • 瀬戸朝香
  • 山本耕史
  • もたいまさこ
  • 田中哲司
  • 光石研
  • 尾美としのり
  • 小日向文世
  • 大森南朋
  • 鈴木蘭々
  • 本田博太郎
  • 竹中直人

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