スーパーマン・リターンズ/ブライアン・シンガー

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そもそも『新スーパーマン』の企画自体は、’96年頃から進行していたらしい。

一時期はティム・バートンやニコラス・ケイジが興味を示したこともあったのだが(ニコラスが演じるスーパーマンなんて、カルトムービーにしかなり得ないんじゃないか?)、頓挫に次ぐ頓挫で製作は遅々として進まず、業界では日常茶飯事な企画倒れパターンに陥るかと思いきや、一気に映画化実現に向けて拍車をかけたのが、2002年5月に公開された『スパイダーマン』の大ヒットだった。

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マーベル・コミック・ヒーローの代名詞である『スーパーマン』の映画化権を保有しているワーナーの経営陣が、この事態を手をこまねいて眺めているハズがない。

『ユージュアル・サスペクツ』で一躍ドル箱監督に出世し、『X-メン』でヒーロー・アクションものも手がけられることを実証したブライアン・シンガーに監督の白羽の矢が立てられ、世紀のプロジェクトは遂に始動したのである。

僕は1978年に公開された第一作『スーパーマン』の大ファンである。リチャード・ドナーのツボを抑えた軽妙な演出ぶり、ジョン・ウィリアムズの勇壮な音楽、レックス・ルーサーを演じたジーン・ハックマンの流石の怪演ぶりに心を弾ませたものだ。

マッチョでイノセントなスーパーヒーロー像は、当時のアメリカを体現するアイコンであり、当時のオーディエンスはそれを素直に受け入れた。

しかしそれから20年弱の月日が経つと、「強く正しいアメリカ」という神話は崩壊し、「自分勝手な正義を横溢させる、おせっかい好きのアメリカ」というレッテルを貼られてしまう。

善悪だけの二元論だけで通用する時代はとうに過ぎ去り、あまりに健全で優等生すぎるスーパーマンという存在は、時代錯誤なキャラクターに成り下がってしまった。屈託のないイノセンスが崩壊した時代に、スーパーマンは帰還を果たしたのである。

「なぜ世界はスーパーマンを必要としないか?」とはヒロインの新聞記者ロイス・レーンが書いた記事のタイトルだが、それはそのままブライアン・シンガーに突きつけられた命題でもあっただろう。

『スーパーマン・リターンズ』を『スーパーマンII 冒険篇』の5年後という設定にしたのは、その問いに対して真正面から向き合おうとした、ブライアン・シンガーなりの所信表明である(その割にはクラーク・ケントの正体を知っているはずのロイス・レーンがそれを把握していなかったり、時代設定がおかしかったりと、かなりのパラレルワールドになってはいるが)。

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つまり、今やすっかり崩壊した「強く正しいアメリカ」が現代に蘇ったら?というIf構文で物語を仮構しているのだ。そういう意味で、スーパーマンが事故を起こしたスペースシャトルを救出した際に、メジャーリーグのスタジアムに降り立つシーンは極めて暗示的。

ケビン・コスナーの『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年)を例に挙げるまでもなく、ベースボールはアメリカの原点であり、心の故郷だ。

その場所に「強く正しいアメリカ」の象徴・スーパーマンは帰還を果たし、観客からの拍手喝采を浴びる。「アメリカ、かくあるべし」というイメージがこれほど完璧な姿で再現されたシーンは、近年のハリウッド映画ではなかったのではないか。

アメリカが喪失してしまったあらゆるものを補完する作品として、『スーパーマン・リターンズ』は存在するんである。

《補足》
ケビン・スペーシーが稀代の名優であることに疑いはないが、レックス・ルーサー役にはやや不向きかな、と。

エキセントリックな芝居をさせるとそれなりにハマるのだが、どこか憎めないユーモアだったり、子供っぽさみたいなものが皆無なので、単にイヤな奴にしかみえない。ジャック・ブラックあたりにやらせてみたら面白かったんじゃないだろうか?

《補足2》
ブライアン・シンガーはゲイであらせられるので仕方ないのかもしれないが、スーパーマンのスーツがパツパツすぎ!妙に局部が強調されてるし。

今回スーパーマンに大抜擢されたブランドンくん、絶対シンガーにカマ掘られてると思うの僕だけか!?

DATA
  • 原題/Superman Returns
  • 製作年/2006年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/154分
STAFF
  • 監督/ブライアン・シンガー
  • 製作/ブライアン・シンガー、ギルバート・アドラー、ジョン・ピーターズ
  • 製作総指揮/クリス・リー、トーマス・タル、スコット・メドニック
  • 脚本/マイケル・ドハティ、ダン・ハリス
  • 撮影/ニュートン・トーマス・サイジェル
  • プロダクションデザイン/ガイ・ヘンドリックス・ディアス
  • 衣装デザイン/ルイーズ・ミンゲンバック
  • 音楽/ジョン・オットマン
CAST
  • ブランドン・ラウス
  • ケビン・スペイシー
  • ケイト・ボスワース
  • ジェームズ・マースデン
  • フランク・ランジェラ
  • サム・ハンティントン
  • エヴァ・マリー・セイント
  • パーカー・ポージー
  • カル・ペン
  • ステファン・ベンダー

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