B級ムービーのいかがわしさと、遊び心と、多幸感。軽妙洒脱なトリュフォーの遺作
『日曜日が待ち遠しい!』(1982年)は、一言でいえば足フェチの映画。
トリュフォーは実際に女性のおみあしが三度のメシより好きだったらしいが、この映画でもファニー・アルダンを素人劇団の団員という役柄に仕立て、事件の捜査をしている時もコスプレ状態=美脚全開という無理目な設定を突き通し、個人趣味に走りまくっている。
ジャン・ルイ・トランティニャンが、地下室から道路を行き交う女性の足に見とれていると、ファニー・アルダンも自分の脚線美をアピールせんとして、負けじと道路を往復するシーンなんぞ、その典型だ。
トリュフォーはこの作品を撮り上げた1年後、52歳という若すぎる死を迎えるのだが、彼の遺作がこういう軽量級の映画だったというのは、特に理由もなく嬉しくなってしまう。
ベースは、チャールズ・ウィリアムズの『土曜を逃げろ』を下敷きにしたミステリー作品なのだが、フィルムにはどこかB級ムービーのいかがわしさと、遊び心と、多幸感に満ちている。
『終電車』(1980年)みたいな重厚メロドラマよりも、こんなライト級の作品のほうが、たとえば「814」だとか「エッフェル塔」といった定番のモチーフも活きてくるんではないか。
サスペンスの積み上げ方も綿密に伏線を張るのではなく、エモーショナルに物語が展開しちゃったりするので、あんまりスリルが生成されないんだが、でもこれはこれでいいのだ。
これがトリュフォー流のサスペンス調理法、トリュフォー流フィルムノワール。それを補って余りある、軽妙洒脱なロマンティシズムの横溢。これ以上何を云わんや。
まーなんてったって、タイトルがいいじゃないですか。『日曜日が待ち遠しい!』。何てウキウキするような、軽やかなタイトルなんだろう。それだけでこの映画はアリです。
ちなみにラストは、ファニー・アルダンとジャン・ルイ・トランティニャンができちゃった結婚で式を挙げるシーンで幕を閉じるのだが、実際にアルダンとトリュフォーのあいだにも子供ができちゃったそうな。さすがトリュフォー、手がはやいね。ま、好きにしてください。
- 原題/Vivement Dimanche!
- 製作年/1982年
- 製作国/フランス
- 上映時間/111分
- 監督/フランソワ・トリュフォー
- 製作/アルマン・バルボール
- 原作/チャールズ・ウィリアムズ
- 脚本/フランソワ・トリュフォー、シュザンヌ・シフマン、ジャン・オーレル
- 撮影/ネストール・アルメンドロス、フロラン・バザン、テッサ・ラシーヌ
- 音楽/ジョルジュ・ドルリュー
- 美術/ヒルトン・マッコニコ
- 編集/マルティーヌ・バラーク、マリー・エーメ・デブリル
- ファニー・アルダン
- ジャン・ルイ・トランティニャン
- フィリップ・ローデンバック
- カロリーヌ・シホール
- フィリップ・モリエ・ジェヌー
- グザヴィエ・サン・マカリー
- ジャン・ピエール・カルフォン
- ヤン・デデ
最近のコメント