ユーモアとペーソスをたっぷり注ぎ込んだ、ジェラール・ジュニョ風“一般大衆向きの作家映画”
演劇集団「スプランディド」の一員であり、パトリス・ルコント映画の常連俳優としても知られているジェラール・ジュニョが、自ら監督・主演を務めた感動作。
ナチスドイツ占領下のフランスで、ふとしたことからユダヤ人少年をかくまう羽目に陥った精肉店主人バティニョールが、命がけで子供たちをスイスに逃亡させようと大奮闘。「ユダヤ人の少年と、非ユダヤ人の中年男心の交流」という設定からして、的を外していない。
ジェラール・ジュニョはインタビューで、「私は一般大衆向きの作家映画が好きだ。私の考える成功した映画とは、あらゆる層の観客の心をつかむ作品のことだ」と語っている。
確かに『バティニョールおじさん』は、背景に深刻なテーマが扱われているものの、あくまでエンターテインメントであらんとユーモアとペーソスがたっぷり注ぎ込まれており、観賞後に爽快な印象を与える。という訳で本作を皆様にお勧めすることやぶさかでないのだが、敢えてひとつ不満を申し上げます。
バティニョールおじさんは子供たちを救うために、キザったらしい娘婿のピエール=ジャンを殺す。しかしその殺害シーンは映画内ではオミットされており、バティニョール自身も「別に殺しちゃいない。病院に行けば助かるよな?」とトボけてみせる。
だがここは、彼が単なるお人好しの中年親父から、強い信念を持ったオトコに転換する決定的な場面のはずだ。別に暴力趣味という意味ではなく、ここは省略すべきシーンではなかったんではないか?
おそらく、「愛すべきバティニョールおじさんが殺人を犯す」という事実を映像として語ることに、ジェラール・ジュニョ自身が躊躇したのだろう。だとすれば、キャラクターの劇的な内面変化を露出することよりも、キャラクターが身に纏っている無垢なイメージを保持する事の方が、優先順位としては上位ということだ。
だがこの選択によって、『バティニョールおじさん』がひどく甘ったるいコーティングによって、塗り固められた作品のようにも思えてしまう。もちろん後味の悪さを払拭することによって、彼のいうところの「一般大衆向きの作家映画」が保証されている訳なのだが。
- 原題/Monsieur Batignole
- 製作年/2002年
- 製作国/フランス
- 上映時間/100分
- 監督/ジェラール・ジュニョー
- 製作/オリヴィエ・グラニエ、ドミニク・ファルジア、ジェラール・ジュニョー
- 脚本/ジェラール・ジュニョー、フィリップ・ロペス・キュルヴァル
- 撮影/ジェラール・シモン
- 音楽/ハリル・シャヒーン
- 美術/ジャン・ルイ・ポヴェーダ
- 編集/カトリーヌ・ケルベル
- 衣装/マルティーヌ・ラパン
- ジェラール・ジュニョー
- ジュール・シトリュック
- ミシェル・ガルシア
- ジャン・ポール・ルーヴ
- アレクシア・ポルタル
- ヴィオレット・ブランカエル
- ダフネ・ベヴィール
- ゴッツ・バーガー
- エリザベス・コムラン
- ユベール・サン・マカリー
- サム・カルマン
- ナディーヌ・スピノザ
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