“爽快感”のみが奨励されるハリウッド・ムービーの異端児的作品
前作『ボーン・アイデンティティー』(2002年)のダグ・リーマンから、今回『ボーン・スプレマシー』(2004年)でポール・グリーングラスに監督が交替した訳だが、映像的にはライヴ感が増した感がある。
両者とも「手持ちカメラの多用」、「カット割りの多さ」という特徴を持ち合わせているが、グリーングラスはカットごとにカメラ・ポジション、アングルを大胆に変えて落差をつけ、より“目まぐるしさ”を強調。特に終盤のカーチェイス・シーンは、動体視力の限界に挑戦したかのようなカット割りの連続だ(目が疲れた…)。
目まぐるしいのはストーリー展開も同様。マット・デイモンの脳裏によぎる断片的な記憶、ドイツ・ベルリンにおけるCIAの接触作戦、アボットの計らいによって採掘権を得たロシアの石油会社、ホテルで殺されたロシアの政治家ネスキー…。
あらゆる事象が有機的に絡み合って収束していくのだが、説明描写を挿入することによるスピード感の停滞と恐れたのか、映画の勢い&テンションを重視した編集が施されており、正直一度観ただけではストーリーの全体像を把握するのが、非常に困難。
ミュンヘンで戦ったキザったらしい伊達男は誰だったのか、僕は結局最後まで分からなかった(前作でクリス・クーパーを射殺した最後のトレッド・ストーン“マンハイム”とも思われるが、演じている役者が違う)。
『ボーン・アイデンティティー』では極寒のチューリッヒが序盤の舞台だったが、今回はゴアトランスの聖地として名高いリゾート地、インドのゴアで幕を開ける(ヒッピーだったマリーの提案だろう)。
ジェイソン・ボーンのリ・ボーン・ライフを、ロケーションの差別化によって描き出している訳だが、序盤わずか数分でマリーが殺されれてしまうやいなや、ナポリ、ベルリン、モスクワと、ヨーロッパを股にかけたワールド・ワイドな捕物帳が展開される。
そう、「ヨーロッパを股にかける」とは、スパイ・アクションにおける極めて重要な定番コード。それは『007』をはじめ、古今東西のスパイ物の伝統的な表象である。マリーを失ったジェイソン・ボーンの旅は、異郷のなかで孤独感を募らせていく。
「自分探しの旅」というよりは、「懺悔の旅」といったほうが正確であろう第二作は、前作よりもはるかにダークな作品だ。エンターテインメント作品としては消化しきれない”暗さ”を補完するために、説明描写を省いた編集、ポール・グリーングラスの圧倒的なアクションの質量が必要だったのではないか。
“爽快感”のみが奨励されるハリウッド・ムービーの異端児として、『ボーン・スプレマシー』は存在する。
- 原題/The Bourne Supremacy
- 製作年/2004年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/108分
- 監督/ポール・グリーングラス
- 製作/パトリック・クローリー、フランク・マーシャル、ポール・L・サンドバーグ
- 製作総指揮/マット・ジャクソン、ダグ・リーマン、ヘンリー・モリソン、ティエリー・ポトク、ジェフリー・M・ワイナー
- 原作/ロバート・ラドラム
- 脚本/トニー・ギルロイ、ブライアン・ヘルゲランド
- 撮影/オリヴァー・ウッド
- 編集/リチャード・ピアソン、クリストファー・ラウズ
- 音楽/ジョン・パウエル
- マット・デイモン
- フランカ・ポテンテ
- ジョーン・アレン
- ブライアン・コックス
- ジュリア・スタイルズ
- カール・アーバン
- ガブリエル・マン
- マートン・ソーカス
- トム・ギャロップ
- ジョン・ベッドフォード・ロイド
- カレル・ローデン
- ミシェル・モナハン
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