その流れでいけば第3作は当然、なぜ自分がアサシンとして血を血で洗う人生を送ることになったのか、“ジェイソン・ボーン誕生”の秘密を探ろうとする「自己探求」の物語に成らざるを得ない。『ボーン・アルティメイタム』(2007年)はまさに、命懸けの「自分探し」物語なんである。
最愛の恋人マリーの死によって、ジェイソン・ボーンの内向的性格はますます拍車がかかり、観客がその仏頂面から喜怒哀楽を察することは、ほぼインポッシブル。彼はもはやゴルゴ13的キャラと化してしまっている。
しかしそれだと観客は主人公にさっぱり感情移入できない訳で(モノローグも挿入されないし)、前作に引き続きジョアン・アレン演じるCIA内部調査局長パメラ・ランディが、ボーンの内なる声の代弁者として登場する。
またジュリア・スタイルズ 演じるCIA調査員のニッキー・パーソンズが、今回は出番は少ないながらも、ヒロイン的な役割を果たし、ボーンと心を通わせている。パメラやニッキーを介して、我々はジェイソン・ボーンという孤独な男の内面世界にアクセスする権利を得るのだ。
つまりこのシリーズの秀逸さは、ジェイソン・ボーンの目線で物語を進めるのではなく、複数の人物の視線を交差させることによって、立体的にボーンのキャラクターを浮き上がらせている手法にある。このあたりは、原案と脚本を務めているトニー・ギルロイの周到な計算によるものだろう。
また、ジェイソン・ボーンがどれだけ超人的な人物なのかを描くにあたって、今作ではその驚異的な肉体能力を発揮するだけに留まっていない。トレッドストーン計画についての取材を進めていた新聞記者を、的確な状況把握と冷静な判断で携帯電話で誘導し、CIAからの追跡をものの見事にかわしてしまうというシーンに、それは顕著だ(最後は新聞記者が一人でテンパって殺されてしまうが)。
ボーン自身がいかなる窮地からも脱出できることは前2作で立証されている訳で、自分ではなく他人の窮地を救うことで、逆にボーンの凄さを表現しようとする発想は非常に面白い。
前作『ボーン・スプレマシー』に引き続きメガホンをとったポール・グリーングラスは、もともとドキュメンタリー映画を撮っていたという出自を活かし、今作でも臨場感を伝える手持ちカメラと、驚異的なカット割り(通常のアクション映画は総カット数1000程度といわれているところ、この作品では4000カットを優に超えているらしい!)で、ライヴ感にこだわった映像設計をはかっている。
僕は『ボーン・アイデンティティー』のレビューで、
「手持ちカメラとステディカムを組み合わせた、荒々しくラフなカットの連続。我々はそこに、現代的なスパイ・アクションの雛形を見る。今後製作されるスパイ・アクション・ムービーは全て、『ボーン・アイデンティティー』をベンチマークせざるを得ないだろう」
と書いた。
そのスパイ・アクション・ムービーの最終通告(アルティメイタム)として、本家ボーン・シリーズの最終章は奏でられたのである。ココまでやってくれれば、もうただただ感服です。
- 原題/The Bourne Ultimatum
- 製作年/2007年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/111分
- 監督/ポール・グリーングラス
- 製作/フランク・マーシャル、パトリック・クローリー、ポール・L・サンドバーグ
- 製作総指揮/ジェフリー・M・ワイナー、ヘンリー・モリソン、ダグ・リーマン
- 原作/ロバート・ラドラム
- 脚本/トニー・ギルロイ、スコット・Z・バーンズ、ジョージ・ノルフィ
- 撮影/オリヴァー・ウッド
- プロダクションデザイン/ピーター・ウェナム
- 衣装/シェイ・カンリフ
- 編集/クリストファー・ラウズ
- 音楽/ジョン・パウエル
- マット・デイモン
- ジュリア・スタイルズ
- ジョアン・アレン
- デヴィッド・ストラザーン
- スコット・グレン
- アルバート・フィニー
- パディ・コンシダイン
- コリン・スティントン
- コーリイ・ジョンソン
- トム・ギャロップ
- エドガー・ラミレス
- ダニエル・ブリュール
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