旧来のファンから石を投げられそうな、「大どんでん返し映画」
【思いっきりネタをばらしているので、未見の方はご注意ください。犯人もバラしてますので。】
『ミッション:インポッシブル』(1996年)は、1966年~1973年にかけて放送された超人気テレビドラマ、『スパイ大作戦』の映画化作品であることは言わずもがなだが、これにあたって、ハリウッドの名だたる脚本家たちがシナリオ執筆に参加している。
『アメリカン・グラフィティ』(1973年)、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984年)を手がけたグロリア・カッツによる初稿を元に、『ジュラシック・パーク』(1993年)、『スパイダーマン』(2002年)を手がけたデヴィッド・コープと、『レナードの朝』(1990年)、『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2001年)を手がけたスティーヴン・ザイリアンがスクリプトを練り上げ、さらに『チャイナタウン』(1974年)でアカデミー脚本賞を受賞したロバート・タウンが手を加えたという豪華さだ(ややこしい)。
しかしながら、当代随一の職人たちによって鍛えられたシナリオは、真犯人を『スパイ大作戦』の主人公であるジム・フェルプスに据えるという、旧来のファンから石を投げられそうなくらいに大胆極まりないものだった。
オリジナルシリーズでジム・フェルプスを演じたピーター・グレイブスはハッキリと否定的な態度を表明し、同シリーズでローラン・ハンドを演じたマーティン・ランドーも、この作品の出演を要請されていたが、「自分のキャラクターを自殺させるボランティアなんてしたくない」と降板している。
しかしながらプロデューサーを務めたトム・クルーズは、勇敢にもこのシナリオにGOサインを出し、演出にブライアン・デ・パルマを指名する。『キャリー』(1976年)や『ミッドナイトクロス』(1981年)の頃から、大どんでん返し映画はお手のもの。かくしてこのビッグ・プロジェクトは、しずしずと出航を果たしたんである。
ブライアン・デ・パルマは、『裏窓』(1954年)のオマージュとして『ボディ・ダブル』(1984年)を、『めまい』(1958年)のオマージュとして『愛のメモリー』(1976年)を、『サイコ』(1960年)のオマージュとして『殺しのドレス』(1980年)を発表してきた、生粋のヒッチコキアン。
巻き込まれ型サスペンスである『ミッション:インポッシブル』は、さしずめデ・パルマ版『北北西に進路を取れ』(1959年)というところか。それにしても、『マイノリティ・リポート』(2002年)といい、『宇宙戦争』(2005年)といい、トム・クルーズには“逃げる男”がよく似合う。
デ・パルマお得意のスプリット・スクリーンや、長廻し、360°パンといったアクロバティックなテクニックは全体的に控えめ。敵と味方がめまぐるしく入れ替わる展開に専念しつつ、爆発、宙吊り、変装、列車上のアクションと派手な演出を施している。
VFXを大々的に導入した視覚効果はデ・パルマの本分ではないだろうが、このあたりはビッグ・バジェット・ムービーゆえの選択か。
しかしながら、フェルプス(ジョン・ヴォイト )がトム・クルーズに作り話をしつつ、一方で真実がフラッシュバックで描かれるシーンは、いかにもデ・パルマ的。100%トム・クルーズ印のこの映画のなかでも、“デ・パルマ・タッチ”はそこはかとなく挿入されている。
『ミッション:インポッシブル』の最大の美点は、ブライアン・デ・パルマという強烈な個性をもほどよく中和する、そのバランス感覚。この映画には、ヴィヴィッドな色彩感覚…鮮烈な赤も画面を引き締める黒もない。驚くほどフラットな映像で、最大公約数の観客を楽しませんとする。
従来からのデ・パルマ・ファンにはやや不満な“コクの無さ”こそ、成功の秘密だったのだ。
- 原題/Mission:Impossible
- 製作年/1996年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/110分
- 監督/ブライアン・デ・パルマ
- 製作/トム・クルーズ、ポーラ・ワグナー
- 製作総指揮/ポール・ヒットコック
- 原案/デイヴィッド・コープ、スティーヴン・ザイリアン
- 脚本/デイヴィッド・コープ、ロバート・タウン
- 撮影/スティーヴン・H・ブラム
- 音楽/ダニー・エルフマン
- 美術/ノーマン・レイノルズ
- 編集/ポール・ハーシュ
- 衣装/ペニー・ローズ
- トム・クルーズ
- ジョン・ヴォイト
- エマニュエル・ベアール
- ヘンリー・ツァーニー
- ジャン・レノ
- ヴィング・レイムス
- クリスティン・スコット・トーマス
- ヴァネッサ・レッドグレイヴ
- エミリオ・エステヴェス
- デイル・ダイ
- マーセル・ユーレス
- インゲボーガ・ダプクテイナ
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