【思いっきりネタをばらしているので、未見の方はご注意ください。】
『ソルト』はなかなか深刻な映画である。何が深刻かというと、現在起きている状況が観客にさっぱり分からないことが深刻なんである!
- 北朝鮮で核に関する諜報活動に従事したとして、イヴリン・ソルト(アンジェリーナ・ジョリー)が拉致されて激しい尋問を受ける。本人はスパイであることを否定。アメリカと北朝鮮の捕虜交換が行われ、ソルトはアメリカに帰国。→でもホントにCIAエージェントでした。
- ロシアからの亡命者オルロフの密告によって、ソルトがロシアからのスパイであることが示唆される。ソルトは否定するも聞き入れられず、安否が不明の夫の身を案じてソルトはCIAから逃走。→でもホントにロシアのスパイでした。
- アメリカの世界的地位を失墜させるため、ソルトが訪米中のロシア大統領を暗殺。一時的にCIAに拘束されるものの脱出に成功する。→でもホントはロシア大統領は暗殺されておらず、単なる仮死状態だった(つまりソルトはロシアのスパイ活動に従事していた訳ではなかったのです)。
とまあこんな感じでお話が進むんだが、ソルトの正体がコロコロ変わるものだから彼女の行動原理がサッパリ分からず、こちとら観客は安心して物語に没入できん。
「今目の前で進行している事態が把握できない」という状況が上映時間中ずーっと続くんである。THE拷問!
主人公の内面描写が欠落しているから、映画が破綻してしまっている…と申し上げている訳ではない。
例えば『ボーン・アイデンティティー』(2002年)、『ボーン・スプレマシー』(2004年)、『ボーン・アルティメイタム』(2007年)と続く『ボーン』シリーズが巧妙だったのは、内面描写がすっかりオミットされた主人公ジェイソン・ボーンに対して、観客が心理的同調がはかれるように、CIAのパメラが彼の行動原理をご丁寧に説明していた。
だが『ソルト』には、観客を迷子にさせないためのガイド役がそもそも存在しない。この映画の弱点はその一点にある。
高層マンションを壁つたいに移動するだけでビビっていたはずのソルトが、ブロンドを黒髪に染めて“謎のロシア・スパイ”ソルトとして覚醒した後は、エレベーターシャフトを軽業師のごとくジャンプして移動するなど、常人離れした身体能力を発揮。…と、プロット上の不備はもちろん、フィリップ・ノイスの演出にも疑問だらけ。
木に竹を接いだかのような残念なシナリオ、観客にクエスチョン・マークを点滅させる残念な演出。B級アクションばかり出演して、確実にネームバリューを下げてしまっているアンジー女史には、同情を禁じ得ませんです。
- 原題/Salt
- 製作年/2010年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/100分
- 監督/フィリップ・ノイス
- 製作/ロレンツォ・ディボナヴェンチュラ、サニル・パーカシュ
- 製作総指揮/リック・キドニー、マーク・ヴァーラディアン、ライアン・カヴァナー
- 脚本/カート・ウィマー
- 撮影/ロバート・エルスウィット
- 音楽/ジェームズ・ニュートン・ハワード
- アンジェリーナ・ジョリー
- リーヴ・シュレイバー
- キウェテル・イジョフォー
- ダニエル・オルブリフスキー
- アンドレ・ブラウアー
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