それにしても、『キング・コング』の予告編で激ヤセしたピーター・ジャクソンが出てきた時には、驚いた。
明らかに好きな言葉は「ご飯お代わり!」であろう程に、でっぷりした体躯の持ち主だった彼が、CGで加工したんではないか?といぶかるぐらいに痩せていたんである。
これも、過酷な『ロード・オブ・ザ・リング』トリロジー撮影の重圧によるなんだろうか。だとすれば、スリムバディーを目指して日夜奮闘中の皆さんには、今すぐにも壮大なファンタジー映画を撮影されることをオススメする。想像を絶するプレッシャーにさらされて確実に痩せられるだろう。
そんなピーター“スリム”ジャクソンが、指輪をめぐる冒険から1年程度のブランクで撮りあげた映画が、1933年に製作された古典中の古典『キング・コング』のリメイク。
怪獣映画の熱狂的ファンだった彼は、ハリウッド・デビュー作『さまよう魂たち』を完成させたあとに『キング・コング』のリメイク企画を進めたのだが、『さまよう魂たち』が大コケし、当然のごとく企画も流れてしまった。
という訳で、いわば今回はその雪辱戦。名前で客を呼べる監督になったピーター・ジャクソンの、真価が問われる作品となった。
さてこの『キング・コング』、上映時間が188分もあり、やたら尺が長い。大きく分けて3つのブロックから構成されているのだが、どのシークエンスにも時間をたっぷりとかけている。
- ジャック・ブラック演じる映画監督が、売れない喜劇女優のナオミ・ワッツや若手脚本家のエイドリアン・ブロディなどを引き連れて、謎に包まれた髑髏島へ
- 髑髏島でキング・コングとご対面。ナオミ・ワッツとコングの間に密やかな感情が生まれる
- ニューヨークに連れてこられたキング・コング、ナオミ・ワッツを探して街を大混乱に招き入れる
- が、最期はエンパイア・ステート・ビルの屋上で息絶える
物語のイントロダクションとしての機能を果たしている《1》のシークエンスに、ピーター・ジャクソンは何と約1時間もかけている。つまり、物語の1/3までは、お目当ての髑髏島にすら辿り着いていないということだ。
彼が導入部で敢行したのは、世界恐慌から立ち直りきっていない1930年代のニューヨークの風俗をたっぷりと描くことと、ナオミ・ワッツ、ジャック・ブラック、エイドリアン・ブロディといった主要人物をじっくりと掘り下げること。
「人間のエゴイズム」という本編のテーマにフォーカスを当てるためには、導入部をハショる訳にはいかなかったんだろう。
しかし髑髏島に着いてからは、映画は俄然エンターテインメント作品として活気を帯びてくる。スピルバーグの『ロスト・ワールド』状態で物語はトップギアで突き進み、『エイリアン』(1979年)や『スターシップ・トゥルーパーズ』的なエッセンスをまぶしながら、ほぼ間断なくアクションシーンが連続するんである。
《2》のシークエンスに手に汗握る場面がたっぷりと盛り込まれた結果、『キング・コング』は普遍的な娯楽大作としての強度を獲得。
ドラマティックな高揚を保ったまま、《3》のシークエンスへと橋渡しすることができたのだ。ピーター・ジャクソンの、商業作家としてのプロフェッショナリズムを感じずにはいられない。
ただ、ちょっと気になるのはスローモーションの多用。緊迫感を煽るためにコマ落とし風のスローモーションを活用するのは、『ロード・オブ・ザ・リング』でも見受けられた古いテだが、ナオミ・ワッツとエイドリアン・ブロディがお互い惹かれあっていく場面でもスローモーションを使うものだから、恋愛劇自体がチープな印象を受けてしまう。
古典的作品に対して、あえて古典的な技法で挑むというのは珍しくないやり方だが、どーにもTPOに合ってないんではないか。
ひょっとしたら、ピーター・ジャクソンは本質的に古典的な作家なのかもしれない。ティム・バートンやクエンティン・タランティーノに代表される「B級オタク系映画監督」の系譜に位置しながらも、オタク的教養が画面の端々に滲み出るのではなく、職業作家としてスペクタクルをまとめあげてしまうスキル。
彼は現代のセシル・B・デミルなのか?
- 原題/King Kong
- 製作年/2005年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/188分
- 監督/ピーター・ジャクソン
- 脚本/ピーター・ジャクソン
- 製作/ジャン・ブレンキン、キャロリン・カニングハム、フラン・ウォルシュ、ピーター・ジャクソン
- 原作/エドガー・ウォレス、メリアン・C・クーパー
- 脚本/フラン・ウォルシュ、フィリップ・ボウエン
- 撮影/アンドリュー・レスニー
- 美術/グラント・メジャー
- 編集/ジェイミー・セルカーク
- 音楽/ハワード・ショア
- ナオミ・ワッツ
- ジャック・ブラック
- エイドリアン・ブロディ
- アンディ・サーキス
- ジェイミー・ベル
- カイル・チャンドラー
- トーマス・クレッチマン
- コリン・ハンクス
- アンディ・サーキス
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