フローズン・タイム/ショーン・エリス

フローズン・タイム [Blu-ray]

文科系男子のリビドーを端正なビジュアル・センスで描くお馬鹿ムービー

実は『フローズン・タイム』(2006年)に関して、僕は何の予備知識もなく観に行ってしまいました。フライヤーのイメージから、スパイク・ジョーンズやミシェル・ゴンドリー系の、「ちょっとストレンジなブリティッシュ・ポップ・ムービー」という漠然とした印象を抱いていただけでありまして。

実際、監督・脚本・プロデュースを務めたショーン・エリスは、「Vogue」や「Harper’s BAZAAR」といったファッション雑誌で活躍している有名フォトグラファーらしく、スチール写真で磨かれた端正なビジュアル・センスは、本編でも十二分に発揮されている。

だが、意外や意外。『フローズン・タイム』は斜に構えたアート系ムービーと思いきや、文科系男子のリビドーを真っ正直に引き写した、正真正銘のお馬鹿ムービーであった。

プロットは非常にSF的。ガールフレンドにフラれたショックで不眠症に陥ってしまった美大生のベン君が、余った時間を有効活用すべく24時間営業のスーパーでバイトを始めるのだが、8時間におよぶナイトシフトはとにかく退屈極まりない。

「楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうが、つまらない時間は永遠のように感じる」という、アインシュタインの相対性理論を身をもって体感するベン君の時間的概念は、遂に極限にまで達し、時間をフリーズさせる術を体得してしまう。世界は彼一人を残して静止してしまうのだ。

フリーズした世界で、ベン君が真っ先に起こした行動はナニか。それはスーパーに買い物にきたうら若き女性の衣服を脱がせて、ひたすらデッサンすることである!

ポール・バーホーベンの怪作『インビジブル』(2000年)で、透明人間になってしまったケヴィン・ベーコンが、若い女性の部屋に不法侵入したりするのと何ら変わらない破廉恥な行為を、ベン君は“芸術行為”というお題目によって正当化しようとする。

カメラを片手に一瞬を切り取る創作活動に身を置いてきたショーン・エリスの、自己言及的なシーンとも言えるだろう。

『インビジブル』(ポール・バーホーベン)

そんなベン君を取り囲む連中は、年がら年中悪ふざけばっかりしているバイト仲間や、女性のハダカにしか興味がない幼馴染みの悪友や、「俺のバースデー・パーティーに、ストリップ・ダンサーを連れてこい!」と言い出したりするスーパーの店長(スキンヘッド!)たち。

そのバカさ加減が逆に愛おしい彼らが繰り広げるドタバタ劇は、もはや『初体験/リッジモント・ハイ』(1982年)や『ポーキーズ』(1982年)といった’80年代アメリカ学園モノにも近接している。即席フットサルチームが26-0でライバルチームにボロ負けしてしまうシーンなんぞ、青春学園ムービーの定番的要素だ。

もともとはこの作品、退屈なスーパー・マーケットで過ごす8時間のナイトシフトを、18分間の尺の中で描いた短編作品が下敷きになっているらしい。こちらは僕は未見だが、おそらく現実と空想が混濁とした、華麗なる映像絵巻プレイが展開されているのであろうと推察する。

それを長編映画としてリメイクするにあたり、コア・プロットを肉付けするファクターとして、アメリカ学園モノ的なお馬鹿エッセンスをまぶすという戦略に、僕はひっくり返ってしまった。

ちなみに本編の主人公ベン君を演じるのは、ショーン・ビガースタッフ。『ハリー・ポッター』シリーズで、ハリーの所属するクィディッチ・チームのキャプテン、オリバー・ウッド役を演じていた役者さんである。

そう考えてみるとフットサルのシークエンスは、「クィディッチに対するオマージュ的な要素もあるのかなー」と思ってみたり。絶対関係ないけど。

DATA
  • 原題/Cash Back
  • 製作年/2006年
  • 製作国/イギリス
  • 上映時間/102分
STAFF
  • 監督/ショーン・エリス
  • 脚本/ショーン・エリス
  • プロデューサー/ショーン・エリス、レネ・バウセガー
  • 撮影/アンガス・ハドソン
  • 美術/モーガン・ケネディ
  • 音楽/ガイ・ファーレイ
  • 衣装/ヴィッキー・ラッセル
  • 編集/ネーナ・デーンヴィック
CAST
  • ショーン・ビガースタッフ
  • エミリア・フォックス
  • ショーン・エヴァンス
  • ミシェル・ライアン
  • スチュアート・グッドウィン
  • マイケル・ディクソン
  • マイケル・ラムバーン
  • マーク・ピッカリング
  • フランク・ヒスケス

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