シニカルな酸味がたっぷりと効いた、現在進行形のフーリガン・ムービ
’60年代に勃興したアメリカン・ニュー・シネマには、ベトナム戦争を背景とした反体制のイデオロギーがムンムンと充満していた。当時のヒッピーは、ボニーとクライドが雨あられと銃弾を浴び、ピーター・フォンダとデニス・ホッパーがドラッグ漬けになる様子を、感慨をこめて見つめていたに違いない。
しかし、今じゃどうだ。ドラッグや暴力は、セックスと同価値のファッションでしかない。『トレインスポッティング』(1997年)で描かれる若者たちは、モラトリアムな日々の生活の中で未来と格闘する。
クラブに行ってはオンナをひっかけてファック三昧、サッカーに明け暮れては相手チームと大喧嘩。クスリでハイになって、ガキができりゃ中絶させる。「未来を選べ」だって?冗談じゃない、俺たちゃ「今」すら生きられない。Life is Fuck!!
アーヴィン・ウェルシュの同名小説を映画化した『トレインスポッティング』は、どーしようもない若者のどーしようもない青春を描いた、’90年型の青春ドラッグ・ムービーだ。UKの香りがプンプン漂う、愛すべきクソッタレ映画だ。
凡庸なライフスタイルをアザ笑う、ユアン・マクレガーの不敵な面構えを観よ!しかし後半にはヤクと足を洗い、マトモな職について更正しようとしたりする。
バカやれるのは若い時だけなのさ、という意外に冷静な選択に我々はリアルを感じずにはいられない。昔のダチのしがらみが尾を引っ張り、なかなかチンピラから脱却できない現実もまた然り。
髭面ジャンキー、ベグビー(ロバート・カーライル)に振り回され、未来はなかなか掴みきれないのだ。Life is Fuck!!
そんな刹那系スタイリッシュ・ムービーを下支えするのが、トリップ感あふれるサウンド・トラック。疾走するイギー・ポップの『Lust For Life』、漆黒の闇をたゆたうアンダーワールドの「Born Slippy」。さらにブリット・ポップの雄BLURや、大御所ブライアン・イーノまで集結したと聞けば、サントラを買わざるを得んだろう。まさにコークやヘロのように“効く”音楽揃いである。
- ラスト・フォー・ライフ(イギー・ポップ)
- ディープ・ブルー・デイ(ブライアン・イーノ)
- トレインスポッティング(プライマル・スクリーム)
- 銀河のアトミック(スリーパー)
- テンプテーション(ニュー・オーダー)
- ナイトクラビング(イギー・ポップ)
- シング(ブラー)
- パーフェクト・デイ(ルー・リード)
- マイル・エンド(パルプ)
- フォー・ホワット・ユー・ドリーム・オブ~フル・オン・ルネッサンス・ミックス(ベドロック・フィーチャリングKYO)
- 2:1(エラスティカ)
- ボーン・スリッピー(アンダーワールド)
- クローゼット・ロマンティック(デーモン・アルバーン)
スコットランドからやってきた『トレインスポッティング』は、御当地名物ウィスキーのように強烈な口当たり。ビジュアルもサウンドもナチュラル・ハイでブっとんでる。コイツはシニカルな酸味がたっぷりと効いた、現在進行形のフーリガン・ムービーだ。
そんなジャンルないですけど。
- 原題/Trainspotting
- 製作年/1997年
- 製作国/イギリス
- 上映時間/93分
- 監督/ダニー・ボイル
- 製作/アンドリュー・マクドナル
- 原作/アーヴィング・ウェルシュ
- 脚本/ジョン・ホッジ
- 撮影/ブライアン・テュファノ
- 美術/ケイヴ・クイン
- 編集/マサヒロ・ヒラクボ
- 衣装/レイチェル・フレミング
- ユアン・マクレガー
- ジョニー・リー・ミラー
- ケビン・マクキッド
- ロバート・カーライル
- ケリー・マクドナルド
- ピーター・ムーラン
- アイリーン・ニコラス
- シャーリー・ヘンダーソン
- ポーリーン・リンチ
- アーヴィング・ウェルシュ
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